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Act.2-01

 瞼の奧にほんのりと明るさを感じた。  私は目を覚ます。  そして、ぼんやりとしたまま、辺りを見回した。  死後の世界――にしては、ずいぶんと現実的な光景だ。  無駄に広々とした部屋に、ソファーとテーブル、テレビ。  そして、私が横になっていたベッドも、特に変哲のないダブルサイズだ。  いや、ダブルサイズのベッドは普通に考えて変だ。 「ここ、どこ……?」  夢の中にいる時までは幸せに浸っていたのに、急に不安を覚えた。  冷静になって考えてみたら、ここはただの部屋じゃない。  よく耳を澄ましてみたら、奥の方から水音が聴こえてくる。  まさか、と思い、ベッドから降り、私は恐る恐る音のする方へと近付いてゆく。  水音は、ドアの向こう側から聴こえる。  考えるまでもない。  それはシャワーの音だった。 「まさか、あの時に……?」  お手洗いの前で意識を失う寸前のことを想い浮かべる。  あれは死神などではなかった。  誰かが私をここまで連れ込んだ、ということだ。  ――逃げなきゃ!  考えるよりも先に、私はソファーに置かれていた自分のバッグを掴み、部屋を出ようとした。  と、その時だった。  シャワールームのドアが開いた。  急がないと、と思うのに、私の足は硬直したまま動かない。  予想通り、そこから出て来た人物はバスローブを身に纏っている。  とても怖くて、顔などじっくり見ていられなかった。 「あ、あの……」  私は両手でバッグを抱き締めたまま、強く目を閉じる。  このまま襲われる。  そう思っていたのだけど―― 「気分はどう?」  思いのほか穏やかに訊かれた。  しかもこの声、聞き覚えがある。  怖い。  けれど、もしかしたら、という淡い期待もあり、私は恐る恐る顔を上げた。 「さっきよりは顔色がいいな」  私と目が合うなり、その人はニッコリと笑いかけてきた。  先ほどの夢の中と同じように。 「な、なんで……?」  訊きたいことは山ほどある。  なのに、やっと出たのはこれだけだった。 「そんなに俺にビックリしてる?」  彼の問いに、私は何度も頷く。  驚かないはずがない。  まさか、別れたはずの彼が私の前に再び現れるなんて。  もう、逃げようなどという気はなくなった。  私を介抱してくれたのが彼だと分かり、すっかり安心してしまった。  とはいえ、やっぱり別れた相手には変わりないのだけど。
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