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Act.1

 距離は人を不安にさせる。  つまらないことで喧嘩をして、すれ違い、どちらからともなく別れを切り出した。  しばらくは抜け殻のようだった。  もう、恋なんて面倒なことはしたくない。  そう強く思いながら毎日を過ごした。  なのに、私は何をしているのだろう。  友人に誘われるがままに参加した合コンだったのに、アルコールが入ったとたん、自分でも抑えられないほどテンションが上がっている。  初対面の男達の、値踏みでもするようなギラギラした視線にも気付いていた。  だから、最初は警戒していたはずなのだけど、お酒は私の中の理性を壊してゆく。 「ごめん、ちょっと外すわ」  盛り上がっていたところで、私はゆっくりと立ち上がる。  そして、フラフラとした足取りでお手洗いへと向かう。 「ふう……」  私は洗面台の縁に手をかけ、鏡に映し出された自分と睨めっこした。  目が据わっている。  ちょっと酔っ払ってるな、と自覚があった。  でも、まだまだ飲み足りない。  もっと飲んで、飲みまくって、今までのことを全て忘れてしまおう。  とはいえ、酔いが冷めたらまた、想い出してしまうかもしれない。  それならそれで、また飲めばいいだけだ。 「私はまだまだいける!」  誰もいない中で声を張り上げてから、お手洗いを出た。  と、その時だった。  目の前の風景がぐにゃりと歪んだ。  立っていることもままならず、そのまま崩れるように床に座り込んでしまった。  おかしい。  酔っ払ってはいるけれど、ここまでお酒に弱くなかったはずなのに。  こんな姿、誰にも見られたくない。  そう思って立ち上がろうとしても、身体の自由が利かない。  もう、このまま死んじゃうのかな、なんて考えていたら、ふわりと身体が浮き上がった。  抱き上げられたことは分かった。  けれど、相手の顔が分からない。  まるで、そこだけ靄がかかったかのように。  ――死神……  不意に浮かんだ。  死神は私を無言で運ぶ。  このまま、死後の世界へ連れていかれてしまうのだろうか。  そんなことを考えながら、私は瞼を閉じていった。  ◆◇◆◇  彼が、私の隣で笑っていた。  これは夢だ。  だって、現実の彼の心は私から離れてしまったのだから。  でも、夢だと分かっていても、私は幸せだった。  いっそのこと、このまま目覚めなければいい、なんて思ったけれど、私は意識を失う寸前、死神を見たのだから、現実に戻れるわけがない。  ――死ぬ寸前に幸せな夢を見させてくれるなんてね……  私も彼に向けて微笑み、彼の温もりを離すまいと抱き着いた。
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