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第16話 答え合わせ
「で、お前は。俺が藤倉を好きだと勘違いしたまんま、逃げ回ってた訳だ」
ソノ通リデス。
”汗を流しながら話そう”という事になり、今はぬるめのお湯を張ったお風呂に二人で膝を突き合わせている。
(背中から、ぎゅう、が良かったんだけどな)
しかし松本は、私の顔を見て話したかったらしい。
(い、居たたまれないよお)
お湯が乳白色で視えないのが救いだ。私は小島みたいに水面に浮かんでいる、膝小僧をみつめながら頷いた。
ぽちゃり、と音がして私の頬に松本の手が添えられて、そのまま瞳を合わせられた。
「……」
「高3の時、予備校に通い始めた」
その時、偶然にも私達は出会ってたんだという。
「消しゴム落としたら、後ろの子が拾ってくれてさ」
それが私だったのだという。
「一目惚れだった」
まさかの告白に、ぼん!とか頭から水蒸気が出そうだ。
「で、志望校聞いて、ここを受ける事に決めた」
「え?」
松本の顔を見直したら、優しそうな眼で私を見ていた。
『俺、●●大学に行く事に決めたわ』
そう言ったら、ブンブンは猛抗議してきたのだという。
『どういう事!私や雅紀君が勧めてもNO!の一点張りだったのに』
『ずばり、女だな』
二人の年上の幼馴染である戸田さんがニヤニヤして指摘したんだとか。
「え。戸田先輩?」
「そ。新歓コンパでお前を見つけた時、”まさか”と思ったよ。で、まさ兄ぃ、戸田さんに持ちかけられたんだ。”なあ、共同戦線張ろうぜ”って」
なんと、ブンブンは戸田先輩とずっと付き合っているんだそうだ。
松本とブンブンと先輩は、小学校からの幼馴染。
中学の時からブンブンは先輩にアタックしてたらしい。とうとう、根負けした先輩が”俺と同じ大学に受かったら付き合ってやるよ”て約束してくれた。それを糧にブンブンは一生懸命勉強してきたらしい。
「共同戦線って? 」
「”お前はデカフジ狙い、俺は文。どっちもムシを付けさせたくない”。俺は戸田さんの言葉に頷いた」
「……」
「”上の奴らは俺が抑えるから、在学中はお前が押えろよ”って」
私が帰った後。
『野郎どもっ、良く聞け!俺は文と付き合ってる。で、コイツはデカフジ狙いだから!お前ら、どっちにも手を出すなよ!』
戸田先輩が宣言したのだという。
(うわ)
なんて事をしちゃってんの。
「で、俺は事あるごとに、お前にアタックし始めるんだけど」
(されてたっけ?)
私が首を傾げると、松本がはあああ……と深いため息をついてきおった。
「あんまりにお前がニブチン過ぎて、気が付いて貰えなくて。俺は”駄目じゃん、大輔”で、”だすけ”になった訳だ」
松本、私の肩に項垂れちゃったよ。
(”マッチ”から”だすけ”になったのは、そういう……)
なんだ。
そういう事だったのか。
「合宿所決める時、アイツら言ってだろ。『仕方ねえよ、相手デカフジだもん』て」
ずき。
「……ウン」
心に刺さったトゲだ。
「あれ、”ニブチンのデカフジなら仕方ねえよ”って意味」
「……」
私。サークルの奴らが松本に同情する位、そんなにニブかったのでしょうか。
「ポッキーゲームだって、王様のヤツに何回酒を奢ったと」
「へ? 」
「どさくさに紛れて、お前にキスしようと思ってた」
(なんとっ……! )
私がやろうとしていた事を、既に行っていたとは。
(まったく)
部長だからか、指揮者だからか。根回し能力、ハンパない。
「なのに、眼をうるうるさせて真っ赤になった挙句、ポッキー折りやがって。なんの焦らしプレイだよ」
えっと。
「お前が逃げ出した後の”だすけ”コールが、ハンパなかった」
それが原因だったのか。
(そう言われれば、松本が私に絡んだ後に”だすけ”呼ばわりされてる事が多かったような……? )
「流星群で首尾よく二人になれたから、思いのたけを告白しようと思ったら猛ダッシュしやがって。何処のライフセーバ―かと思った」
お前、高校陸上部だったんだってな。あの下駄であの速さ。追いかけるのを諦めた、と言われて。
なんか、段々と申し訳ない気持ちになってきた。
「挙句に、藤倉が”一大事だよ!ふーちゃんがマッチの事、『好きじゃない』って言ってた!”て言いに来て、それから記憶がない」
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