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第8話 八つめの嘘

 22時以降はホール以外は音出し禁止。 でも、ホールでの音出しも24時まで。……という事は。起床時間の7:30までは飲み会タイムだっ。  18歳から大丈夫な健全飲み会(! )とR20に別れるのは、大抵3時か4時ごろ。今の時間は、皆で一緒くたになって、飲んで遊んでいる。誰かが、王様ゲームをやりだし、勝手に番号札が配られていた。 「王様の命令は~、ハートの5番と、スペードのエースのポッキーゲームだあああっ」  うわああ、と宴会場が湧いた。 ちらりと自分の番号札を見て、私は固まった。 (ハートの5番じゃん)  やりますよ。場を盛り上げるのも、執行部のお仕事です。 私はスペードのエースの主を探した。と、松本が王様からポッキーを受け取って、私の処へやってくるではないか!  (こっ、これは……! 合法的に松本とちゅー出来るチャンスっ! )  ときめかない訳がない。 神様、ありがとう! 私、今年分のラッキ―、全部使ってしまったかもしれない。 (でも、悔いなし! )  あとは、ぶっちゅー出来るように、慎重に進めねば。 やいのやいの騒ぐ、メンバーたちの中心に私達は立たされた。 「kiss、kiss! 」  囃す声は頭の中を通過もしない。 私は眼の前の松本に集中しまくっていた。松本がポッキーを咥えた。やおら、私の肩を掴んで、ぐいと抱き寄せた。  おおおー、という声が何処かで聞こえた。 松本は噛むことなく、ぐいぐいとポッキーを呑み込むようにして、距離を縮めてきた。 (睫が長い)  綺麗な瞳。あ、お肌きれ―……。唇と唇が触れ合うまで、あと1cm。キスを期待していた癖に、私は焦った。 (本気? ) だって、松本。好きな子いるんでしょう……。 (ダメっ)  私が松本とキスしちゃ、駄目。 お互いの体温も感じとれるようになった時、私の前歯がポッキーをかみ砕いた。 「あああぁー」  残念! という声がするなか、私は真っ赤になっているであろう顔を冷やすべく、洗面所へと逃げ出した。 ”ダ・ス・ケ! ほらっ、ダ・ス・ケ! ”というコールが聞こえてきた。おおっ、て言う声が聞こえるのは松本がお酒を飲みほしたんだろう。  ドキドキしながら、私は松本の顔を想いだしていた。 私をずっと見つめていた瞳。すっと通った鼻筋。全体的に細い癖して、そこだけふっくらとしていた唇。 (あああっ、私! どうしてしくじったあー! )  千載一遇のチャンスだったのに。王様にワイロでも渡さない限り、こんな機会には二度と恵まれないだろう。 (こういう処に、運の悪さが出るよねー……)  私はため息をついた。 (キスしたかったのに)  咄嗟に、いい子ぶってしまった。宴会芸だったから、万が一キスしちゃっても、誰にもなんとも思われなかったのに。 (松本だって、する気満々みたいだったし) ぐいぐい来るとは思わなくて、びびった。 (男って、キスするの誰でもいいのかな……)  そんな事を想いながら流水で手を冷やしては、ぺちぺちとホッペにあてた。 「もう、いいかな」 鏡を見て、赤味が減ったのを確認して、宴会場へと戻った。 「おー! ハートの5番が戻ってきたぞぉ~! 」 (まだ続いてたんかい! ) しかも一層の盛り上がりを見せている。松本が真っ赤な貌をしていた。一体、何倍飲んだんだか。私が立ちすくんでいても、コールは終わらない。 (しつこいよ、チミタチ) 「ほらデカフジっ、ほら、ダ・ス・ケっ! ! 」  え、と思う間もなく松本が表面張力しているコップを渡してきた。仕方なし、受け取る。と、直角に曲げた私の腕の中に、松本が腕を交叉してきた。 (何、これ)  ドキドキしていると、松本がじっと私を見つめたまま、自分のコップに唇をつける。仕方なく、私もコップに口をつけた。松本は眼を逸らしてくれないまま、一気にコップの中身を煽った。 (一気はいけないんだよー) とか、言いつつ私も素直に傾けた。  頑張ったけど、松本には敵わない。飲み終わると松本は、レフェリーよろしく私の手首を掴んで掲げて見せた。 (だーっ)  いちいち触らないでよっ、心臓が飛び出しちゃうでしょうが! 勿論。そんな事を悟らせるほど、素人ではありません。 --あくまでも、当社比、だけど。
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