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第6話 六つ目の嘘

 合宿当日。 車での移動は道路渋滞が見込まれるから、人間は電車で出発になった。  OBに手配して貰った指定の時刻になると、電車が乗り入れるホームに続々とメンバーが到着してくる。  楽器は前日の夕方、クラブハウスの前で待機していたトラックに預けてある。 夜通し走って朝方には到着する。  荷物と楽器は、宿の方が預かってくれる予定だ。 楽器が万が一、人間より後に到着しても譜面合わせだとかパート毎の親睦会とか、それなりにする事がある。水着や譜面は個々で持参するように、通達してあった。  サラリーマンが休めるお盆休みはこれからだから、一車両をほぼ貸切状態。座席をボックス型に直して、プチ宴会が始まった。  私は各大学との連携係だったから、祝電を手配したりする。各パートリーダーから提出して貰ったリストに従って、スペア楽器の貸し借りの交渉もする。それらを、タブレットを使ってやり取りをしていた。  時折、外を眺めてみた。 都心部の風景から畑地、田んぼの割合が多くなってくると、トンネルを潜るようになった。 「海だ! 」 誰かが叫ぶと海側の窓に、一斉に鈴なりだった。 「みんな、もー。子供過ぎー」  ブンブンが苦笑ともつかない表情でいう。 「と言う、藤倉のバッグには、ビーチボールが入ってる事を知っている」 松本がツッコンできて、ブンブンは目を丸くした。ついで、口を尖らせた。 「なんで知ってるの! 」 膨れっ面になったブンブンを観ながら、私と松本はゲラゲラ笑った。  松本が言う。 「この前買ってたじゃん」 一瞬にして、私は真顔になった。 (みんなが言ってた、"デート"の時に買ったの? ) 私の知らない処で、二人が出かけている。気にしてないフリをして、話題を変えた。 「ブンブンは泳げるの? 」 無理無理、と首を横に振られた。 「泳げたら、ビーチボール持ってこないよー」 私も聞かれた。 「ねえ、ふーちゃん。水着持ってきたぁ? 」  帰りは指定席をあえて取らなかった。 散会の後は自由解散出来るようにしておいた。延泊する奴らもいるだろうし、合宿所から直で実家に帰省する子もいるだろう。勿論、荷物を宿に預かって貰って、泳ぎに行くのも自由だ。 「持ってきた」 「ビキニそれともワンピース? 」 「流行りのタンキニ」 「タンクトップ脱げばビキニって奴だよね! 楽しみだなぁ、ふーちゃんはナイスバディだから! 」  ふふーと楽しそうにブンブンが言うと、唐突に松本が立ち上がった。一目散に走っていく先を確認したら、トイレのようだった。 「……冷たい物でも一気飲みして、お腹にキたのかな」 「そーかもぉー」  私の呟きに対して、何故かブンブンはニヤニヤ顔だった。しばらくして戻ってきた松本は、真っ赤な顔をしていた。心配で覗きこんだら、被っていた帽子を目深にして眠ってしまった。 「松本、大丈夫かな。今日、賛助さん到着するんでしょ? 」 私が心配すると、更にブンブンの顔が生暖かい気がしたので、やめた。  そうこうしているうちに、合宿所のある駅についた。  10分程歩くと合宿所で、合宿所から海までは眼と鼻の先だ。潮の香りがして、みんなソワソワしだした。海まで走り出したい気持ちを我慢して、まずはホールに全員集合する。合奏の練習をするホールには、荷物と楽器が無事届いてた。  それぞれ、自分の旅行鞄と楽器があるか、確認する。 パートリーダーとコンサートミストレス(ブンブンだ)、そして指揮の松本は食堂に移動して早速譜面合わせ。  私達執行部は宿の方に挨拶する者、合宿係を手伝って部屋割りを決めた。 荷物を運び入れるとホールを清掃し、本番と同じ配置でパイプ椅子を並べ、譜面台を立てた。 指揮者やパートリーダーの指示した事を書き込む為に、各自の譜面は必須だった。けれど、小さい楽器の子達は基本的に二人で譜面を見る。秋の演奏会に向けて、そろそろ慣れる時期だった。
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