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第5話 五つ目の嘘
松本とブンブンが二人きりで話してた。
(そりゃ)
私は一生懸命、二人である事の正当性を探す。
(部長で指揮者と、ステマネだもん。色々と相談事はあるでしょ)
松本は面倒見がいいし、みんな彼に相談を持ち掛ける。
一方のブンブンだってステージマネージャーとして、来るべき演奏会に備えて賛助楽器の手配とか指揮者との打ち合わせは必須だ。
(松本がブンブンと二人っきりになりたいから、じゃないし)
……多分。
なのに、サークルメンバーの言葉が心を引っ掻いていく。
「お! だすけとブンブンだ」
「あいつら、仲いーよな。この前、二人で歩いてる処見ちゃった」
(え)
私の動きが止まる。
(二人だけで? 私の知らない処で? )
何時、何処で。
今まで、そんな事はなかった筈だ。
(それとも、私が知らなかっただけ? )
メンバーが興奮したようで、声が大きくなった。
「うっそ、マジ! どこでだよ」
「あのさ……」
私は眼を瞑 った。出来れば耳も塞ぎたかった。メンバーの横を通り過ぎようとしたら、呼び止められた。
「おう、デカフジ」
(ああー。やっぱりか)
ニヤニヤして呼び止められた。この後の展開が予想できたから、声掛けないで欲しかった。観念して訊ねる。
「……なに」
「あいつら、やばくね? どうよ、ヨメとしてはさ」
やっぱりその質問か。
……ブンブンはよく、私の事を”うちのヨメ”呼ばわりしてくるのだ。(何が”嫁”認定なのか、わからないけど)サークルで一人だけ”ふーちゃん”と私を呼んでくれる彼女だから、悪い気はしていなかった。
「さあ? 」
(こっちが知りたいよ)
私はそう思いながらも、無関心なフリをして返事をした。
だけど奴らは、そんな事で諦めるような性格ではなかった。
「お前なら知ってんだろ。3人の中で誰と誰がくっついてるんだよ。もしかして3Pか? 」
(余計なお世話だよ)
私が行く処に、何故かブンブンがついてきて。気が付くと松本が合流している、というのがパターンだった。
(そうか)
漸く理解した。
(松本は、そうやってブンブンの傍に居ようとしたんだ)
自分のあまりの鈍さに茫然とした。
今までも女子と歩いていると、さりげなくその子を好きな男子が追いついてきて、何時の間にか私は二人の後を追いながら歩く、という構図を経験してきた筈なのに。
(松本が私にも普通に話し掛けてくれるから)
ブンブン狙いのついでだとは気づいていなかった。
「どうするよ、二人が付き合っちゃったら! やばいんじゃね、本妻と2号との戦いっ」
そう言いながら、眼が爛々と輝いてる。
「付き合おうがどうしようが、二人の自由でしょ」
私は素っ気なく言った。
二人がくっつこうが、私にはどうする事も出来ない。遠くから、二人がイチャイチャしているのを、気にしないフリをする事位しか。
「大体、”本妻と2号”て何よ。ブンブンの本妻は私。2号なんて許さないし」
ふと思う。
(私の化けの皮、剥がれちゃわないかな)
一瞬、サークルを辞める事も考えたが、ゼミが一緒だ。
辞めた事で、却ってサークルのメンバーに私が松本を好きだって事、 知られてしまうかもしれない。
私はカップルになった二人の隣で、今まで通りヘラヘラと笑ってられるんだろうか。
(”松本なんて、何とも思っておりません”て嘘を吐いたまま、卒業までやり過ごせるのかな)
自分に訊いても、答えは返ってはこなかった……。
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