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第2話 二つ目の嘘
「おおーぅ。だすけとデカフジが一緒とは、怪しいなあー」
部室に向かうと、既に集まっていたメンバーに揶揄われた。
(松本と噂されるなんて、夢みたいだ)
舞い上がりそうになって、すぐに沈んだ。私じゃない子を好きな松本には迷惑に違いない。ここで躍起になると、もっと盛んに揶揄われるのは経験済みだ。
「あんた達、小学生か」
そう言いながら、鞄を空いている棚に適当に突っ込んだ。部室は10人も入れば、キツキツになる。先に到着した奴らから奥へと詰めていくルールだ。お弁当だけ持って、私も出来るだけ奥へと進もうとした。
「えー。だけど、ツルんで来るってことはさぁー」
(しつこい)
「外れ。授業が一緒、コンビニが一緒、部室まで一緒だっただけ」
私がそっけなく言い捨てると、男子が不服そうに唇を尖らせた。
「ちぇー、色気ねえの」
そういう男子に、もう一人が合いの手を入れてきた。
「仕方ねえよ、相手デカフジだもん」
ずきん。
咄嗟に胸に握りこぶしを抱きしめたくなったが、堪えた。
私は173cmだ。ヒールを履くと、そんじょそこらの男子よりも大きくなってしまう。デカイ藤代。だから通称『デカフジ』。入部して以来のニックネームだから、慣れなきゃいけないのに。(慣れた筈なのに)やっぱり痛い。
「ハイハイ、そこのぼくちゃん達。おねーさんより小さいからって僻まないの。文句言う前に、とっとと大きくなりましょうねー」
傷ついた事を悟られたくない。
私はわざと揶揄ってきた男子の頭をナデナデしてあげた。すると身長が低い事を気にしていたのか、睨みつけてくると乱暴に私の手を払いのけた。
「セクハラだぞ、お前っ」
(何処がだよ)
先に”デカフジ”って言っておいて、自分だけ傷ついたつもりなんだ。理不尽なものを感じてしまった。
なんで男子は”大きい”が褒め言葉だと思っているんだろう。
”胸だって身長だって、大きい事がコンプレックスな女子って沢山いるんだよ! ”
そう言ってやりたい。
だからってそれを言ってしまっては、駄目なのだ。サークルという小さな世界がギスギスしてしまう。
(私だって、大きく生まれたかった訳じゃないよ)
出来れば、ブンブンみたいに可愛い女の子に生まれたかった。……アイツの大好きな、ブンブンのように。155cm位で胸もDカップ位はあって、レースとフレアースカートが似合う子。
私が口を開こうとした瞬間、松本が加勢してくれた。
「だったら、お前らも藤代にセクハラしたろーが」
「なんだよ、”デカイ”って言っただけだろ」
まるっきり、自分の罪に気づいてないソイツは、平然と言う。
「なら、ふーちゃんだって、田中君に”小さい”って言っただけでしょ」
松本の後ろからブンブンも言ってくれたので、私は大分気が楽になった。
「援護射撃、サンキュ。でも、別に気にしていないから」
(嘘)
私はいつも嘘をついている。
本当は気にしまくっているのに、気にしないフリをしている。
背が伸びて胸が大きくなってから、私は嘘を沢山つくようになった。
へらへらと笑っていないと、世の中渡っていけないからだ。私みたいなデカい女は、ブンブンのように素直な感情表見する事を求められていないのだ。斜に構えて、クール。誰よりも経験が無いのに、大人のフリ。それが、私がここで演じている役割だった。
「ちぇー」
男子がぶつぶつ言いながらも引き下がってくれた。松本をすり抜けると、ブンブンが私の腕に手を滑り込ませてきた。
「ふーちゃん、待ってたんだよ。席とっておいたから! 」
「ラッキー」
痛みに蓋をして、ブンブンが示してくれた席に座った。
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