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第5話

 翌朝、朝早く猟師がおばあさんの家を訪ねてきました。  森で一人暮らしをするおばあさんをかねてから猟師は心配し、ちょくちょく訪れていたのです。  ですがドアを開けたのは馴染みの老婆ではなく赤ずきんでした。  朝早く起こされたせいか赤ずきんは不機嫌そうでした。寝乱れた髪やらシャツやらがやけに淫猥に見えて猟師は目を逸らしました。真面目な猟師はどうにもこの人をくった言動をする赤ずきんが苦手なのです。 「おばあさんはご在宅か?」 「いや、ばあさんは人喰いオオカミに食われたらしい」 「なんだって!?」 「……朝っぱらから大声をださないでくれよ。頭に響くだろう? それに、……ああやっぱり起きちゃったじゃないか。せっかく気持ちよさそうに寝ていたのに」  ちらりと室内へ視線を流した赤ずきんのその目線の先を猟師は追いました。どうやらベッドに誰か――何かが寝ているようです。あかがね色の尻尾がちらりと見えたような気がしました。 「あれは……?」  猟師の目に間違いがなければオオカミの尻尾のように見えます。  その猟師の視線をすっと身体で遮って、赤ずきんが微笑みました。ですがその目はまったく笑っておりません。むしろ威嚇していると言ってもいいでしょう。 「ああ、あれははぐれオオカミでね。僕のペットにすることにしたんだ」 「ペット……??」  オオカミをペットにするなど聞いたこともありません。 「なにをバカなことを言っているんだ。オオカミがペットになどなるか。襲われる前にさっさこちらへ引き渡せ。私が処分してやろう」 「いやだね。それにあれは僕のものだ」  一歩も引かない構えの赤ずきんに、猟師は吐き捨てました。 「食い殺されても知らないぞ」 「……あの子に食い殺されるなら、それもいいさ。さあ、用事がそれだけならさっさと行ってくれ。もう一眠りしたいんでね」  猟師の鼻先でドアは閉められました。猟師は深いため息を一つ落とすと気がかりそうに後ろを振り返り振り返り村の方へ去っていきました。  猟師が去り、ベッドの中で怯えて震えていたあかがね色のオオカミは戻ってきた赤ずきんに尋ねました。 「なぜ、あたしを引き渡さなかったの?」  赤ずきんは大あくびをしながら答えます。 「だってあんたは人喰いオオカミじゃないでしょう?」 「……信じてくれたの?」 「昨日充分身体に訊いたしね」 「……っ」  彼女は赤くなって言葉を詰まらせました。朝になりオオカミの姿に戻っていたので毛皮に覆われてその赤さが相手に見えないことにほっとします。  ですが、動揺は尻尾と耳のせわしない動きにちゃんと現れていました。  そして赤ずきんがその姿を微笑ましげに見つめていたことに、オオカミは気づきませんでした。 「あんたと一緒に居ると退屈せずにすみそうだね」  そう言って、赤ずきんはオオカミの首筋を撫でました。  思いのほか優しい手つきでした。  その手の動きはあの優しかったおばあさんによく似ていました。オオカミはなんとなく安堵して、その手に身を委ねました。 「もう一眠りしよう」  明け方近くまで起きていた一人と一匹は身を寄せ合って、再び眠りの園に旅立ちました。  その後、赤ずきんは家に帰ることなく、おばあさんの家でオオカミと暮らし始めたのでした。 FIN
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