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第3話

「おばあさん、明かりもつけずにどうしたの?」  その可愛らしい涼やかな声には聞き覚えがありました。  森で人喰いオオカミを退治した帰り道に声をかけてきた子供のものでした。  獰猛な種族であるオオカミに話し掛けてくる人間はめったにいません。そういった意味ではおばあさんと赤ずきんはよく似ていました。  いずれにせよ、あかがね色のオオカミはなんとかこのピンチを乗り切らなければならないようです。  おばあさんの代わりにオオカミが居たら、人間の考えることなど一つでしょう。きっとオオカミがおばあさんを食べたと思うはずです。  布団に潜り込んだオオカミは、おばあさんの振りをすることを思いつきました。  この場さえ赤ずきんを誤魔化せればよいのです。  赤ずきんが去った後に、どこか遠くの土地へ移り住もうとあかがね色のオオカミは考えました。……あくまで上手くいけばの話ですが。 「おばあさん、寝ているの? 明かりをつけるよ?」  赤ずきんがテーブルの上のランタンに火を灯ともそうとします。  それをオオカミは慌てて遮りました。明かりを灯されては正体がばれてしまう可能性があるからです。 「待っておくれ。明かりは目に痛いんだよ」  オオカミはおばあさんの口真似をしました。ですが、声の高さは変えられません。案の定、赤ずきんは不思議に思ったようです。 「……あれ? おばあさんってそんなに澄んだ可愛らしい声だったかな」 「今日は昼間にはちみつ湯を飲んだから喉の調子がいいんだよ」  テーブルの上にお菓子とワインが入った籠を置いた赤ずきんがベッドへ近づきます。  あかがね色のオオカミはびくびくしながら布団の中でさらに身を縮こませました。  赤ずきんはそんなオオカミを訝しげに覗きこみました。そして驚いた声をあげます。 「おや、おばあさん、なんて大きな耳だい」 「お、おまえの声がよく聞こえるようにさ」 「おや、おばあさん、なんて大きな目だい」 「おまえの顔がよく見えるようにさ」 「おや、おばあさん、なんて大きな手!」 「おまえをしっかり抱けるようにさ」 「おや、おばあさん、なんておそろしく大きな口をしているんだい!」 「…………」  沈黙したオオカミに赤ずきんは大きなため息をつきました。 「ねえ、そこはおまえを食うためだって言ってくれなくちゃ」 「く、食わないわよ!!」 「おかしいなぁ、あんた人喰いオオカミじゃないの?」  恐れ気もない様子でまじまじと見られてオオカミの方がうろたえます。普通の人間だったら悲鳴をあげて逃げるはずなのに赤ずきんは平然としているのです。いったいどんな図太い心臓の持ち主でしょう。  赤ずきんはオオカミの布団をはぐと、その上に圧し掛かってきました。 「重い……!」 「ねぇ、おばあさんはどこだい? まさかこの腹の中じゃないよね」  赤ずきんは翠色の綺麗な瞳を妖しげに光らせてオオカミの腹を撫でさすりました。あかがね色のオオカミはぞっと背筋を凍らせます。それは人喰いオオカミの凶暴な瞳より、なおも恐ろしげな色を孕んでいるように見えたからです。  本能的な恐怖を感じて、オオカミは逃げ出そうとしました。  ですが赤ずきんにすかさず尻尾を掴まれ、引き摺り戻されてしまいます。  ベッドの上で暴れるオオカミを赤ずきんが押さえつけます。そして無遠慮な手でオオカミの全身を触りました。 「おや、あんたメスだね」  手で確認されて、オオカミは総毛立ちました。そこは今まで誰にも触れられたことのない場所です。 「いやあ!」  オオカミが泣きながら叫んだ時です。  雲間から月が覗き、月光が天窓からベッドの彼らの上に降り注ぎました。  するとあかがね色のオオカミの身体が大きく痙攣して、みるみるその姿を変えていったのです。  大きな耳とふさふさの尻尾と唇からちらりと覗く少し大きめの犬歯を残して、人間の女の子へとオオカミは姿を変えました。
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