1 / 5

第1話

 むかしむかし、森の外れの小さな村に、とても可愛らしい子供がおりました。  お母さんの作った赤い頭巾がとても似合うその子供は、いつしか村のみんなに赤ずきんちゃんと呼ばれるようになりました。  赤ずきんは、整った顔立ちをした器量良しで、頭もよく、村のどの子供より機転が利き、また運動神経もずば抜けていたので、村人からは一目置かれた存在でしたが、――少々面倒くさがりで女の人にだらしない面があったので、一方で娘さんを持つ親には警戒された存在でもありました。  赤ずきんは、今日もお気に入りの赤いフード付きコートを颯爽と着こなして、村を堂々と歩いていきます。  その手には、お菓子とワインの入った籠を下げています。  だらだらとお昼近くまで寝ていた赤ずきんをお母さんが叩き起こし、森に住む病気のおばあさんの元へお使いを言いつけたのです。渋る赤ずきんをお母さんは家から蹴りだしました。 「道草せずに、さっさと届けてちょうだいね!」 「はいはい」 「返事は一回!」 「はーーーい」  ふざけた返事を返したら、真っ赤なリンゴが赤ずきんの頭を狙って飛んできました。そこに容赦はありません。第二撃が飛んでくる前に、赤ずきんは慌てて逃げました。 「お見舞いなんて面倒くさいなぁ」  赤ずきんはぶつぶつ零しながらおばあさんの住む森へ仕方なく入っていきました。  森を進むと花摘みをする娘さんたちに出会いました。 「やあ、こんにちは」  すかさず赤ずきんは声をかけます。 「こんにちは、赤ずきんちゃん」 「綺麗な花だね」 「そうでしょう? 玄関に飾ろうと思うの」 「わたしはテーブルの花瓶に生けようと思って」 「押し花にして、しおりを作るつもりよ」  口々に花の用途を教えてくれる娘さん達に、赤ずきんは妖艶な微笑みを向けました。 「ふ……。僕が言っているのは君たちの手に持つそれではなくて、君たち自身だよ」  とたんに娘さんたちの歓声があがります。歯の浮くようなセリフも赤ずきんが言うとなぜか様になってしまうのでした。  言葉の魔法でその場にいた娘さん達全員を誑たぶらかせた赤ずきんは、さっそくお母さんとの約束を破ってそこに留まり道草をしました。  娘さんたちからたくさんのお花を貰い、再び赤ずきんが歩き出したのはずいぶん経ってからです。  しばらく行くと、よろよろと道を歩いている一匹のオオカミに出会いました。  あかがね色の少々毛並みの変わったオオカミです。  珍しい色合いで、かつ普通のオオカミよりも大柄なそのオオカミに興味を引かれて赤ずきんは話し掛けました。 「ねぇ、そこのオオカミさん。どこか具合でも悪いの?」  オオカミは赤ずきんに気づいていなかったのか、ぴょんと飛び上がって驚きを露にし、脱兎のごとく木々の影に逃げ込んであっという間に見えなくなってしまいました。 「……ヘンなオオカミ」  赤ずきんは首を傾げました。オオカミという動物はあんなにも臆病そうだっただろうか、と。  さらにしばらく行くと、今度は猟師に出会いました。  黒髪の生真面目そうな猟師は、赤ずきんを見ると、やはり生真面目な口調で忠告を口にしました。 「この辺りには人喰いオオカミが出る、あまりうろつかない方がいい」 「ご親切にありがとう。でも僕はこの森の奥に用があるんだよ」  娘さん相手には愛想のよい赤ずきんちゃんですが、男に対する時はいささか礼に欠くくらいそっけなさ過ぎる態度です。 「それにオオカミにならさっき会ったけど、獰猛どころか臆病な感じだったよ」 「なに、オオカミに会ったのか。そのオオカミはどっちへ行った?」 「あっちの方」  赤ずきんは先ほど会ったオオカミが逃げ去ったのと逆の方向を指差しました。  猟師はあっさり騙されて赤ずきんに礼を述べるとそちらへ歩き去りました。  なぜオオカミを庇う真似をしてしまったのか赤ずきんは自分でもわかりませんでしたが、たぶん真面目な猟師をからかってみたかっただけだろうと思いました。 「さて、ずいぶん時間をくってしまったな」  そろそろ日も暮れかけようとしていました。  赤ずきんは少し足を速めておばあさんの家を目指しました。
いいね
ドキドキ
胸キュン
エロい
切ない
かわいい

ともだちとシェアしよう!