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第18話 突撃ストーカーお宅訪問!!(違)

「「ひぃいいいいいいいいいいいいいっ!!」」  突然、室内の壁にぶっ飛んできた、大きな何かの残骸らしきもの。  真ん中の辺りがぐにゃりと変形しているそれを、柚奈は自分の元ストーカー男と一緒に恐怖に震えながら捉えた。  間違いない、あれは、扉だ!! 扉、だが……、――今のは、明らかに人為的な破壊活動による被害だった!! あれは!! 「あ、ぁぁぁぁ……っ」 「な、何なんだっ!? な、なんで、――げっ!!」  部屋の外からは、中年の男らしき声が大慌てで騒いでいる様子が伝わってくる。  そして、その制止の声を振り切り、ドカドカと狭いアパートの室内へと入り込んできた人の影。元ストーカー男の意外な誘拐理由に気を取られていた時には気づかなかったが、この部屋にはデスクトップPCやCDーROMの類、精密機械に沢山の本が所狭しと陣取っており、踏み込んできた人影が私達を目にした瞬間――。 「何をやってるんだ!! お前は!!」 「ぇええっ!?」  激昂した様子で恐ろしい程に見開かれた輝宮の目。  何をと言われても、元ストーカー男が衝動的にやらかそうとした大惨事を止め……、あ。  自分と元ストーカー男の現在状況を改めて確認した柚奈は、――直後、羞恥の絶叫をあげた。 「いいいいやぁああああああああああああああ!!」 「え? う、うわあぁああっ!! ゆ、柚奈さんっ、な、ななななな、何やってるんですかあああああああっ!?!?」  地面にべしゃりと這い蹲っている二人の現状……。  それは、傍から見れば……、非常にシュールなものだった。  倒れ込んでいる元ストーカー男の腰にしがみき、全力で説得にかかっていた柚奈が無意識にしでかした惨状。それは……。 「うわぁあああああああっ!! 見ないでっ、見ないでください!! 俺のクマちゃんトランクスぅううううううう!!」 「み、見てません!! 見てません!!」 「ガン見してるじゃないですかあああああああああ!! って、ちょっ、柚奈さんっ、どこに手っ、うわぁああああああっ!! お婿に行けなくなるぅうううううううううううう!!」 「へ? ……いやああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」  偶然と無意識の事故は、元ストーカー男の腰からズボンをがばりと引き摺り落していただけでなく、……柚奈の手を、あらぬところにフィットさせていたのだった。  ――当然、柚奈命の突入者がその事故を許すはずもなく。 「柚奈!! 消毒だ!! 今すぐその手を、いやっ、全身をくまなく全殺菌しろ!!」 「俺は汚物か何かですかあああああああああああああ!?!?」 「汚物以上の汚物だ!! くっ、柚奈!! 離れろ!!」 「きゃああっ!!」  自分以外の男のあらぬ部分をがっしり鷲掴んでしまっていた恋人をその腕の中に取り戻し、輝宮は殺意に燃える目で元ストーカー男を睨み下ろすと、容赦なくその背中を踏みつけた!  いや、踏む、というよりも……、勢いと重力を叩き込む、といった感じだろうか。  悲鳴をあげる柚奈を腕の中でぎゅぅううううっと締め上げながら、輝宮は踏む、踏む、打つべし、撃つべし!! の体(てい)で痛めつけ……、ようやく気が晴れたところで乱暴に蹴り飛ばした。 「警察を呼ぶ。務所の中でせいぜい反省しろ」 「ちょっ!! か、輝宮先輩!! 警察はやめてください!!」 「誘拐、監禁、全て犯罪だろう? 紛れもなく」 「そうですけどもっ、誤解だったんです!! この人は、……え~と」  そういえば、この元ストーカー男の名前は何だったか。  柚奈が呼び名に困っていると、半泣きになりながら立ち上がった元ストーカー男がズボンを履きなおし、その場にササッと丁寧な仕草で正座をした。  そして、どこぞの大和撫子のような楚々とした様子で三つ指をつき、一礼。 「お、乙野(おとの)、颯真(そうま)……、と、言います。えっと、……か、勘違いしてて、す、すみませんでしたあああああああああああああ!!」 「……どういう事だ?」 「乙野さんは、私を助けようとしてくれたそうなんです」 「何から?」 「……わ、私を脅迫して、い、……いかがわしい事ばかりしている……、ど、どこぞの、お、お医者様、から、です」 「……つまり、俺か?」 「……はぃ」  非常に気まずい空間である。  柚奈はギギッと横を向きながら小声で今に至る経緯と事実を話してみたが、輝宮からの冷たい冷たい視線がきつくて堪らない。  この場合、誰に罪があり、悪人なのか……。 「おい、何故お前がそんな事を知っている? いや、どこまでだ? 何を、どういう手段を使って得た情報だ?」 「……え~と、その、……お、俺、……盗聴器、とか、PCとか、色々、得意なものが、あ、ありまし、て……」 「乙野さん!! 余計な事言わない方がいいですよ!! この人、本気になったら容赦ゼロなんですから!! んぐっ」  ストーカー時代には怖い思いをさせられ、今度は誘拐という最悪の目に遭わせてくれた相手だが、本人を前に少し話をしてみたら、どうにも憎めない存在だったから……。  柚奈は、大魔王の前に引き摺りだされた哀れな子羊のような気配に包まれている乙野に助け舟を出そうとしたが、輝宮の手に口を塞がれ、むがむがむが!   「やはり警察案件だな」 「ん~!! ん~!!」 「か、構いません!! 俺が、柚奈さんを怖がらせたり、犯罪まがいの事をしたのは本当のことですしっ……。けど、出来るなら、自分の足でっ」 「自首する気か?」 「は、はい!!」  乙野の誠実さに溢れる人柄を目にしていると、この人が自分に恐怖を与え続けていたあのストーカーなんて信じられない。柚奈は真実を知ってからそう思うようになった。  本当に、何かの間違いで道を外れてしまった善良な男性としか……。  けれど、彼が犯した罪は消えない。  柚奈の心に刻まれた傷も、薄らぐ事はあっても残り続ける事だろう。  それに、柚奈を愛しく想い、大事にしている輝宮が……、許すわけがない。  だけど、だけど――。 「ん~!! んっんっ……~~!! ぷはぁっ!! だから、自首なんかしなくていいって、何度も言ってるじゃないですかっ!! 被害者の私が許します!! だから、警察はなしです!!」 「ゆ、柚奈さん……っ」 「お人好しなお前の意見は却下だ。今回の件と、以前にストーカー行為をしていた件も含め、警察行きは必要な処置だからな。そうだろう?」 「なんで元ストーカーだって事まで把握してるんですか!!」  道場と相良の事はともかく、輝宮に過去のストーカー云々の話はしていないはずだ。  なのに、輝宮は被害者である柚奈の言葉よりも自分の怒りを優先し、今回の件も合わせて、過去のストーカー事件の事まで口にした。  ……そういうことか。 「勝手に人のプライベートを調べないでくださいよ!!」  輝宮は医者である以前に、超がつくほどの大金持ちの家の息子だ。  権力も、財力も、人脈も、使えるものは数多い。  ……まぁ、柚奈の事を心から心配しているからこその、行き過ぎた情報収集なのだろうが。   (というよりも、私と隼人先生の関係を調べてたら余計な事まで出てきたんだろうなぁ……)  恐るべし!! 嫉妬深き大魔王の執着性!!  だが、輝宮は柚奈に怒られてもまったく懲りていない。  普通だったら、引かれるか、嫌われるか、色々と残念なルートに突入するだろうに……。 (輝宮先輩……、ゴーイングマイウェイだからなぁ……。はぁ、私も慣れちゃってるというか、……とりあえず)  乙野が警察行きにならないよう、全力で頑張るのが最優先事項だ。  柚奈は輝宮の胸にしがみつき、背伸びをしながら助命嘆願をする援護者のように言葉を重ねていく。 「お願いします!」 「駄目だ」  この不毛なやりとりを繰り返す事、早数十回……。  柚奈はなんとか粘りにねばり、乙野には聞こえない声で交換条件を出した。 「な、なんでも、言う事を聞きます!! 復縁以外で!!」  本当は、真実を話してから輝宮が許してくれるようであれば、……また、傍にいて、二人で生きていきたいな、とは思っているのだが……。  柚奈の葛藤や、もう形になりかけている答えを知らない輝宮にはこのくらいで丁度いい。  万が一、復縁を条件にでもした日には……、真実を知られた後に拒絶され嫌悪される結果になったら二重に辛いに違いない。 「どう考えても復縁する流れにあったはずだがな? いや、最初から別れてもいないが」 「うぅうううっ」 「……だが、妥協してもいいだろう」 「え!?」  面倒なやり取りに飽きたのか、それとも、また意地悪な事でも思いついたのか、輝宮は柚奈にある指示を出してきた。 「外に銀色の車が停めてある。中に……、面倒なじーさんが一人乗っているが、気にせずに乗り込んで待っていろ」 「で、でもっ、乙野さんがっ」 「警察には突き出さない。その代わり、聞きたい事がある」 「……乙野さん」 「柚奈さん……。大丈夫です。もう、二度と柚奈さんの前には現れませんから……。こっちの彼氏さんに殴られたとしても、本望です」  本当に、心根の優しい、誠実であたたかい人だ。  ……だけど、……ストーカー行為を受けていたあの頃、柚奈は本当に毎日が恐ろしくて堪らなかった。全身に絡みつくような、暗くて、ゾッとするような……、粘着質な視線の気配。   (乙野さんは、まっすぐに私を見る……。裏表なんてない、純粋な……)  何故だろう。あの頃の、自分が描いていたストーカー像や、感じていた気配と乙野の雰囲気がまったく重ならない。  乙野が相良に追い払われたあの日から、ストーカー行為はパタリとやんだというのに……。 「あ、あの、乙野さんっ」 「はい?」 「……また、ウチの店に来てください。今度は、正面からまっすぐに、その優しくて明るい笑顔で、私とお話しましょう」 「~~っ!! ゆ、柚奈さぁあああああんっ!! ――へぶっ!!」  被害者でありながら、乙野を許し、おまけにまた会う事まで許してくれた柚奈に感極まったのか、乙野は大型わんこのように飛び上がり、彼女に抱き着こうとして……、見事に輝宮の靴裏の餌食となったのだった。  
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