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第17話 恐怖の再会と、意外な意外な?

「――え」  正体不明の男に眠らされた柚奈。  だが、彼女の目覚めは自分を攫った男を前にした瞬間恐怖を覚えはしたが、すぐに別の間隔へとすり替わった。  男性向けと思われる香水の匂いが漂う一人用のベッドの上で目をぱちぱちと瞬いている柚奈。そんな彼女の目の前……、灰色の絨毯の上で深く、深く、額を擦り付ける勢いで土下座をかましている金髪の男。  彼が来ている白いパーカーとジーンズの恰好は、一年前に最後に見たものとイメージが一致している。それに、こんな感じの体格だった気も、する、の、だが……。  何故自分は土下座をされているのか。柚奈には全くもって理解不能だった。 「あの……」 「手荒な事して、マジっ、すみませんでした!!」 「……ひとつ、お聞きしますけど、……一年前、相良さんに、追い払われた人、ですか?」 「はい!!兄貴の男らしい一撃でぶっ飛ばされたあの時の奴です!!お久しぶりです!!」 「……」  兄貴=相良の事らしい、が……。   (なんか……、悪意が全然感じられないというか、純粋まっしぐらな、……わんちゃんみたいな人)  ストーカー行動を受けていた時は、顔をしっかりと見た事がなかった。  だが、今、柚奈の目に映っている誘拐犯兼ストーカーの男は、普通に会っていれば、好青年という良い印象を抱かれそうなタイプに思えた。キラキラと輝く愛想の良い笑顔だ……。   「あ、あのぉ、です、ねぇ……っ。じ、実は、お、俺、柚奈さんに一目惚れしてから、なかなか告白出来なくて、どうやったら好きになってもらえるかなぁ、とか考えて、考えまくって、柚奈さんリサーチしまくってたんですけど……」  一年もかけて人の周辺をウロウロした挙句、ようやく出た勇気を振り絞って声をかけにいったら、不審者全開の印象がついていたせいで、柚奈を怯えさせる結果になった、と。  バツが悪そうにヘラヘラと笑っている男に、柚奈は内心でドン引き状態だった。  悪い人間ではない、らしい。だが、無自覚にやった事がどんなに有害だったか……。  キッ! と、柚奈から睨み付けられた男が頭の後ろをガシガシと掻き、もう一度その場で深く頭を下げた。 「本当に、すみませんでした!! まさか、ちょっとこっそり陰から見てただけの行為が、柚奈さんをあんなにも怖がらせるとか思ってなくて……。兄貴……、あの、相良さんが助けに入ってきた時に、思い知らされたんですよね。……俺なんかじゃ、貴女の相手にはなれない、って。だから、あれ以降はもう、柚奈さんの前に現れないようにしてたんですけど……」 「……」 「俺の事は、警察に突き出して貰っても、つか、自首しても構わないつもりなんで!! ただ、その前に……っ。柚奈さん!! あの男から逃げてください!!」 「あの男……?」  大型わんこのような男が一瞬で距離を詰め、柚奈の両手をその大きな手の中に閉じ込めて握り込んできた。  鬼気迫っているような顔だ。 「あの、輝宮って奴ですっ。アイツ、柚奈さんを脅迫してるんでしょうっ!? なんでかは知りませんけど、柚奈さんを車の中で強姦したり、へ、部屋じゃ……、うぅっ、無理やり好きとか言わされて、……え、エロい声、い、いっぱい、変な事、されてっ」 「――っ!!!!!!!!!!!」 「す、すみませんっ!! でも、お、俺、聞いちゃったんです!! 相良さんが柚奈さんに、……その、振られた、って。それで、柚奈さんの新しい相手が気になって……、そ、そしたらっ、と、とんでもないやつで!!」 「……」  あ~……。なんだか、事実だけども、凄い誤解がここに。  泣きそうな顔になって「あんな奴、早く警察に突き出してやりましょうよ!!」と訴えてくる大型わんこに、柚奈の目がどんどん遠くなっていく。   (輝宮先輩……、日ごろの行いって、本当に大事ですねぇ)  確かに脅迫されている。……実行に移される可能性皆無の、本当は何の効果もないはずの脅迫を。輝宮の脅迫に逆らえなかったのは、……自分が、彼の腕の中に戻りたがっていたからだ。口から出た嘘の言葉ばかりに意味も、相手を払いのける効力もなく……。  柚奈の心が、輝宮の出してきた条件に縋っていただけだ。  罪を犯していても、愛する人の許に戻りたいという……、隠しきれない我儘を抑えきれなくて。 「え~と、ですね……。実は、違うんですよ」 「へ?」 「ご迷惑をおかけして大変申し訳ないんですけど……。あの人、輝宮さんとは、その、……本当は、ど、同意だったというか、脅迫に、意味はなくて……。わ、私が」 「ま、まさか……!! 柚奈さんって、そ、そういうプレイが好みとかっ!?」 「違いますっ!!」  いや、輝宮に意地悪く攻められて、きゅんきゅんしてしまう時はあるけども。  と、自分の本音や彼に躾けられた性癖を頭を振って打ち払い、柚奈は目の前の彼にわかるように、いや、是が非でもわかってもらわなければならないと意気込んで説明を続けた。   「な、なんだぁぁぁ~……。じゃあ、相思相愛って事、……ははっ、……何やってんだろ、俺。やっぱ警察行こ」 「い、行かなくていいです!! 私を無事に帰してくれるなら、内密に済ませますから!! って、ちょっ!! 窓に行かないでください!! 何する気なんですかっ!!」 「うぅ……っ。柚奈さんを守りたいって、そう、思ったのに、……俺、俺、滅茶苦茶空回りな事しちゃって……、ぁああああああああっ!! 俺なんか空に還ればいいんだぁあああああああああああああああああ!!」 「還らないでぇええええええええええええええ!! すっごくトラウマになるから、還らないでぇえええええええ!! す、ストーカー行為の件も、今回の事も、全部水に流しますからっ」  ベッドから飛び出した柚奈が男の腰にしがみつくと、そのまま二人してどたーん! と、絨毯にダイブしてしまった。……あぁ、この人、ホント、面倒くさい。  顔はとっても綺麗で、黙っていれば文句なしのイケメンなのに……、性格が非常に残念だ。   「……すみません、すみませんっ。生まれてきて、マジ、すみませんっ」 「もう、いいですから……。はぁ、それよりも、早く帰らないと」 「お、俺も、一緒に行きまふっ。あ、あの人に、輝宮さんに、謝らないと」 「やめておいた方がいいですよ。――確実にあの世送りにされかねませんから」 「え?」  男の腰に縋りついたまま、柚奈が脱力しながら青ざめた顔で呟いた不穏な言葉。  男がとてつもなく嫌な予感を感じたかのように、ひくりと口の端をひくつかせると……。  ――ドォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!! 「……え?」  男の部屋の扉が、恐ろしく大きな激しい音を立てて……、室内に吹っ飛んできた。
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