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とびきりの夜をあげる1

 八畳のワンルームにミニキッチンやバストイレがついている、大学生のひとり暮らしとしては一般的な部屋。  白やパステルカラーで統一された可愛らしいその部屋のベッドに、知代は腰かけていた。  自分の部屋だというのに、ガチガチに緊張している。  理由は、隣に付き合い始めたばかりの彼氏が座っているからだ。 「知代、そんなに緊張しなくてもいいのに」  クリスマスにデートをして付き合うことになった菊池くんが、真っ赤になっている知代を見てクスクス笑った。  これまで男など上げたことがないという可愛らしい知代の部屋に上がることができて、菊池くんはご機嫌なのだ。 「菊池くん、近いよ」 「渉って呼んで」 「渉、くん……ん、ふ……」  可愛らしく下の名前で読んでもらえたことが嬉しかったらしい。菊池くん改め渉は、にっこりして知代の唇を塞いだ。  室内で人目がないということもあって、渉は容赦なく大人のキスをする。  何より、そのキスには緊張をほぐしてやるという意味合いもあった。  これから、キスより先に進むのだから、隣に座ったくらいでガチガチになっていては始まらない。 「……知代、怖い?」  散々に口内を蹂躙して、いくらか緊張をほぐした頃。  渉は、唇を離して知代の顔を覗き込んだ。知代は目を潤ませて、ふるふると首を振る。 「怖くは、ない。でも……やっぱり付き合って数日でっていうのは、早すぎるかな……?」  頬を上気させ、知代は不安げに小首をかしげる。  その様子を、渉は優しい笑みを浮かべて見つめている。 「早いかもしれないけど、それが悪いってわけではないと思うけど」 「でも、付き合って三ヶ月くらいでするのが普通なのかなって」 「それ、どこ情報?」  真剣に悩む知代が可愛くて、渉はまたクスクスと笑う。笑われて、恥ずかしくなって、知代はもっと顔を赤くしながら小さな声で「漫画」と答えた。それを聞いて、渉はさらに優しい顔になる。 「出会ったばかりで深い仲になっても長く付き合う人もいるし、そうやって三ヶ月経つまで関係を持つのを待っても別れちゃう人たちもいると思うよ。……まぁ、どちらにしたって俺は知代を末永く大事にするからいいんだけど」 「……うん」  肩の上で切りそろえられた髪を、渉がそっと撫でる。その指先の感触に、知代はうっとりと目を閉じた。  キスやハグはまだ少し緊張してしまっても、そうして髪を撫でられるのは好きなのだ。  幼い頃、親や大人に撫でられたのとはまたちがう心地よさが、渉の指先にはある。愛でられ、慈しまれているのが伝わってきて、女の子としての喜びが胸を満たしていく。 「抵抗があるなら、今夜はハグして一緒に寝るだけでもいいよ?」  物わかりのいいふりをして、渉は知代に問いかける。  渉だって年頃の男子だ。本当なら、腕の中に好きな女の子を抱きしめて眠るだけなんて、辛いに決まっている。それでも、大事な知代に怖がられたくなくて、余裕のある男のふりをした。 「ううん。ちゃんとしたい。……渉くんのこと、もっとたくさん知りたいの」  渉の手に自分の手を重ね、知代は言った。恥ずかしそうにしつつも、しっかりと渉の目を見つめている。  恥じらいながらも自分を求めていることがわかって、渉も幸せそうに微笑んだ。
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