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擬態 二

「でも、大丈夫だよ。契約が取れなきゃ倒産しちゃえば」 「なんでそんなに直臣さんは気楽なんですか」 「俺、色んな会社から声をかけられてるし、結婚しちゃえば良いだろ、俺らも」 「け!?」 思わず太ももに揃えて置いていた両手をばっと上にあげて、変な声が出てしまった。 声が裏返って、変な汗が出る。 「あ、でも借金はどうするんだろ。彼女持ちなのか俺にも何割か負担来るのかな。あはは」 「笑ってる場合じゃないですよ! それ」 呑気な直臣さんにさらに胃がきりきりと締めつけられる。 アトリエ工房『Butterfly』もオープン当時は、事務の私でさえびっくりするぐらいお給金が出た。女優を引退してデザイナーになると言って成立した会社だったからだ。 第一段のウエディングドレスは、全国の結婚式場に置かれて、買い取りが殆どだったけれど、着た分の何割が振り込まれるシステムの式場では、びっくりするぐらいの売り上げだった。 それも、最初の3年ぐらいだったけれど。 結婚と妊娠を期に、今度はその元女優は子供服のデザイン会社を設立。 何故かうちの工房とは全く違う場所で、だ。 お陰で蔑にされ新作のデザインも出来ず、この数年は置いていた式場と契約も切れて返されてくるばかり。 踏んだり蹴ったりとはこのことだ。 「大丈夫だって。君は本当によく頑張ったよ。俺に力が無かっただけだから君はそんなに胸を痛めなくて良いんだよ」 「私は、短大を出てこの工房に就職して貴方に出会えて――本当に大切な場所なんです。貴方の力になれなかった分、せめて最後まで足掻きたいです」 営業で色んな場所に電話したり訪問したり。 貴方が頑張っていたのは、この六年ずっと見ている。 注文が減ってからも、体系が変わってから着れなくなった服やドレスの補正、敗れたり汚れのついた服の修復などでぼそぼそとなんとかアトリエは繋いでいた。 そして久しぶりの女優の新作ウエディングドレス。 なのに。 「……旦那と離婚調停中の女優のデザインとか縁起悪くて売れないよね」 「直臣さんっ」 うううう。全盛期の三分の一ぐらいの注文だった。全然、駄目。 「でも大分でホテルを四つも経営している高山グループがホテルウエディングを始めるなんて本当に運命みたいだよねー」 のんびりと直臣さんは言うけれど、全然運命じゃない。 電話では断られたんだから。そんなに自信があるならば、会って話したしたいと、半ば呆れられての訪問だ。 でも四つの新しい結婚式場で使って頂けるならば、それはそれで私たちも今の状況を打破できる。
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