17 / 19

6

会社を出た後、何だかすぐに帰りたく無い気分だった私はいつもの親友に電話して、 飲みに誘ったのだが、敢え無く二人とも撃沈。 「こういう時に限って空いてないなんて、――っ!」 その時ビュウとビル風が一気に吹き込み私は髪を抑える。 春の突風が一段と強い今日は会社前の桜の木達も風におかげで桜の花弁が沢山舞っていた。 あっという間に国道もピンクの絨毯に変わり、 風が吹くたびに散っていったモノたちが舞い上がる始末だ。 「今年はお花見しないまま桜散っちゃうかな」 舞っていくその姿をぼんやりと眺めながらふと浮かぶ昔の思い出。 そうそれは何物にも替え難い淡い記憶・・・。 「・・・?」 その時国道に黒いワンボックスカーがハザードを出してすぐ近くに止まった。 何気なく見てると、運転席から一人の男性が出てきて何故か私の方に向かって歩いてきたのだ。 黒いスーツに黒縁眼鏡。 軽く俯いたままで表情まではわからない。 しかし近づいて来るその姿に思わずピンときた。 ジャケットの襟についてる青のピンバッジ。 あれは確か・・・。 「服部さんですよね」 「はい、そうですけど・・・」 辺りには退社帰りの沢山の人間がいるのに脇目も振らず私の前で立ち止まった男性に、 恐怖すら感じてしまいつい引きつった顔をして返事を返した私。 初めてそこで男性と視線があった。 無表情でジッと見つめる相手は少なから私に対して何の感情も持っていなそう。 まぁ全くの赤の他人なので、 持っていても困るだけなんだけど・・・。 「ちょっとお話があるので来ていただけますか?」 「へ?なんですか急に。失礼ですけど、何方様ですか」 初対面に近い男性に簡単についていくほど、安い女ではない。 当然相手の素性を聞かないと話が進まないと思った私がそう聞き返すと、 男性はジャケットの胸ポケットに忍び込ませていた、二つ折りにされた一枚の紙を取り出した後、 ゆっくりと広げ私に見せつけながらこう告げた。 「この紙に見覚えは無いですか?」
いいね
ドキドキ
胸キュン
エロい
切ない
かわいい

ともだちとシェアしよう!