15 / 19

「さっき社員さんに聞いたのですが、ここの食堂はとても有名なんですね」 キジョウ化粧品の社員食堂はレシピ本が出るほど人気の食堂だ。 従来の社員は勿論、昼の一時から三時まで限定で一般の人も食事出来るようになっていて、 そのメニューは化粧品会社ならではの美にこだわったものばかりだ。 「そうなんです。女性だけじゃなくて男性向けのメニューもあるので是非食べてみて下さい」 部長がそう言った時、櫻木は初めて私に目線を送った。 「よかった案内して頂けますか?服部さん」 まさかの発言に思わずは?と目がテンになる私。 「いや、彼女は企画部の社員なので、案内なら広報の方に・・・」 「是非とも彼女にお願いしたいのです。ダメでしょうか」 会社の関係者達が櫻木の一言で一斉に慌て始めた。 当然広報の人間の案内でここまで来たのに、 いきなり一社員を名指しで指名するなど想像もしていなかったはずだ。 「お願いします」 櫻木が真剣な表情で私を見つめながら向かって訴える。 その瞬間さっきまで黒歴史だった出来事がフラッシュバックしてきて、 つい顔を赤らめたまま目線を逸らしてしまった。 ーーーヤバイ!意識するな私! 必死に自分自身に言いかけてこの場を乗り切ろうと堪える。 こんなことで動揺したくなんかないのに、 あの時感じてしまったあの感情が再び蘇ってきてしまったのだ。 悔しいけど気持ちよく感じてしまったあのキスの感触が。 そんな私を嘲笑うかのように櫻木は私の腕をそっと掴み、 お願いします。と畳み掛けてきた。 ただ私の反応を楽しんでるだけで、本気で案内なんかしてもらおうなんて思ってないはず。 目は真剣かもしれないが、きっと心の中は面白可笑しく笑ってるんだ。 櫻木はそういう人間のはずだから。 明らかに様子がおかしいと思った部長が咄嗟に櫻木に声をかけ、 腕を掴む櫻木の手をそっと握り離してくれた。 「――なら私が案内しましょう。彼女と一緒だと周りの目もあるでしょう」
いいね
ドキドキ
胸キュン
エロい
切ない
かわいい

ともだちとシェアしよう!