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その日の夜、私はいつもの仲間達と飲みに行き若干ほろ酔い状態で自宅へ向かい歩いていた。 時は既に真夜中で、普段ならタクシーを使う所だが何故か気分が高揚していて、 みんなの制止を振り切り徒歩を選んでいたのだ。 「部署カッコ良かったなぁ。イケメンだし、声もいいし、身長高いし…」 気分がいいのはアルコールが入っているだけが原因では無かった。 素直に部長と話せた事が嬉しかったのだ。 同じチームとはいえ、いつも忙しそうに働き常に綺麗な同僚達に囲まれているので、 私はただ遠くから見ているだけ。 しかも私の事を心配してくれていたなんて…。 「部長ーっ、好きですぅーっ!」 誰も歩いていない夜道で一人叫んでみる。 漆黒の闇の下、閑静な住宅街をフラつきながら歩いていると、 背後から車のハイビームがカッと照しながら走ってきた。 しかもブォン!ブォン!と大きなエンジン音を響かせながら。 「うるさいわよ!みんな寝てるんだからっ静かにしなさいよっ」 正直体が重くなってきて歩けなくなった私は、 そのまま住宅の壁際にへたり込み拳をあげながら走ってくる車にいちゃもんをつけた。 周りから見ればどう考えても車と同罪にしか思えないが、酔いが回った体と頭を抑える事など出来なかったのだ。 座り込んだ私を過ぎ颯爽と走っていく車。 のはずが、 数メートル過ぎた辺りで急に止まり、赤いテールランプをつけたまま右ハンドルの運転席から誰かが出てきた。 私はそんな事に気付かず、地べたに座り込んだまま徐々に意識が薄れていく…。 底身長を気にしていつも無理して履いてる苦手なピンヒールも脱げ、 無理してローンを組んで買った高級ブランドのバッグからは仕事の書類が飛び出ている。 「…おい、そんな所で寝たら死ぬぞ」 男性の声。 二月の夜は〇度に近い程寒い。 しかし顔すら見上げられない程意識が朦朧としていた。 「企画書…頑張らなきゃ…企画書企画書」 うわ言の様に呟く頭の中では、 最高の出来に部長が笑顔で褒めてくれる理想の光景が広がっていた。 「ったく、しょうがねぇな」 全く聴く耳持たない私に深いため息をついた男性は、バッグと靴を手に取った後そのまま軽々しく私を抱きかかえた。 そんな展開でも部長との妄想にニヤつく私。 男性は車に戻り後部座席のドアを開ければ、 そのまま私と荷物一式を放り込んだ。 「部長…」 「…」 横たわったままボソリと呟く私を運転席に座った男性が振り返り眺める。 そして再びエンジンをふかせば、 シンと静まる住宅街に爆音響かせながら走り始めたのだった。
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