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第1話オルネッタ出立!

公女オルネッタは恋する乙女!  灼けるような危険も顧みず、愛するひとを追って戦場へ向かう!  武勇をもって名を馳せるフォルダム公タイグロイドの娘、オルネッタ。  オルネッタには二歳年上の兄がいた。  エリオネル。  同じタイグロイドの子でありながら、自分とは違う匂いのする、優しく逞しいエリオネル。  オルネッタは幼いころより兄を慕っていたものの、そこは血を分けた兄妹。  叶わぬ想いと恋情を胸に秘め、諦観をもって日々を過ごすばかり。  そんな折に転機が訪れた。  王国に蛮族の侵攻があり、父タイグロイドはエリオネルを連れて出兵してしまったのだった。  母の亡きいま、執務は残ったオルネッタに託された。  初陣に立つエリオネルの身を案じながらも執務をこなして数日、予期していなかった報せが届く。  エリオネルの実父が死去した旨の記された書状であった。  エリオネルが実の兄じゃないっ?!  高鳴る胸を抑えながら家系図を検めてみると、果たしてエリオネルは養子だった。  すでに死去した父母ともに、直接的な血のつながりはない。  この事実に、オルネッタの高鳴る胸の鼓動は調子を変えて、ワルツを踊りはじめた。  秘めていた想いが、外へ向けて花開く。  トゥーリアの法律では、兄妹として暮らしていても、血がつながっていなければ結婚できる!  むしろ、父タイグロイドは一人娘オルネッタの婿とするために、エリオネルを養子としたのではないか。  オルネッタの心は浮きたった。  こうしてはいられない!  いくら大切な執務があるといえども、もはやエリオネルの帰りを待っていられるわけがなかった。  こちらから戦場へ赴いて婚約し、取って返して挙式してしまおう!  初陣のエリオネルひとりが戦いから引いたところで、戦局に影響あるはずがない。  娘に甘いタイグロイドも最終的には了承してくれるだろう。  オルネッタは決意した。  愛するひとを戦場から取り戻す!  そうしていちばん頑丈な四輪馬車に駿馬をつなぎ、携帯食料を満載して、オルネッタは城を飛びだした。  言えば反対されるのはわかっていたので、書き置きを残しての単独行だった。  馬の休憩を除いては休むことなく進んで二日め、オルネッタの馬車は山道でいきなり止まってしまった。  なにが起こったのか、オルネッタにはある程度予想がついていた。  それでも気だるげに、客室のなかから御者に聞く。 「なぜ止まったの、ギャロウグラス?」  呼ばれた御者は、しなやかで綺麗な男だった。  黒い頑丈なコートと洋袴という、オルネッタの与えたお仕着せを身に着けていたが、とても使用人に納まるとは思えない雰囲気を醸しだしている。  そのかんばせの美しさ、均整のとれた体躯、隠しきれない筋肉の隆起。  その佇まいは、まるで自らをよく律している猫科の猛獣を思わせた。  ギャロウグラスは薄い唇を開き、冷ややかな灰色の瞳に映ったものを率直に伝えた。 「プリンセス、賊に囲まれています。いかがいたしますか?」 「はぁー……」  予想通りの答えに、オルネッタはため息をついた。  只者ではない豪勢な馬車が単独行をしていては、賊の目につきしだい狙われる。  襲撃ももう初めてではない。  ましてやオルネッタたちは戦場へ近づいていっている。  これからも周囲の治安は悪化していくばかりだろう。  間を置かず、オルネッタはもはや慣れた命令を下した。 「やっておしまいなさい、ギャロウグラス」  しかし御者台のギャロウグラスは動かない。  革手袋をした手で手綱を持ったまま、落ちついた声で言う。 「では、謝礼についてもよろしいのですね?  これは荒事ですので、特別報酬をいただきますが?」 「はぁー……」  オルネッタはひときわ大きいため息をついて続けた。 「わかっていますっ! わたくしが約束を反故にしたことはないでしょう! わたくしは急いでいるのです、問題は手早く片付けて!」 「わかりました、プリンセス」  ギャロウグラスの返事に、野卑た笑い声が重なった。  続いて、割れた銅鑼声が響く。 「おとなしく馬車を明け渡せ! おまえに勝ちめはねぇぞ!」 「中身が女ならそいつもいただくぜ! 命を無駄にすんなよ、色男!」  ギャロウグラスは答えず、静かに御者台を降りた。  それは降伏と見えたかもしれない。  賊たちの笑い声があがる。  オルネッタはすでにギャロウグラスの強さを知っているものの、万が一のことはないかと外を窺った。  ギャロウグラスは短剣すらも帯びていない素手だった。  彼が武器と呼ぶものは、食料と一緒に収納されている。  佇むギャロウグラスへ、三人の汚らしい男たちが近づいた。  筋骨たくましく、剣や斧で武装している。  賊として手慣れた男たちだった。  物音からして、この三人のほかにも賊がいるらしかった。  赤い鼻をした髭の男が、ギャロウグラスを眺めて、いやらしく笑った。 「おい、おまえもなかなか上玉じゃねぇか。男でも値がつき……」  賊が完全に油断していたところへ、ギャロウグラスがしかけた。  髭の男へ疾風のように肉薄し、右の掌底を突きだす。  掌底は賊のあごを的確に捉えていた。  ごきりと音がして、男の首が不自然な方向へ回転する。  声を発する間もなく、そのままどっと倒れた。  間髪を入れず、ギャロウグラスは素早く動く。  あっけにとられるもうひとりの賊へ、鋭い回し蹴りを叩きこんだ。  重いブーツを履いての一撃は、これまた簡単に賊の首を折る。  賊の身体は吹っ飛ばされて動かなくなった。  最後のひとりはこの事態になんとか反応した。 「このやろう!」と叫んで、ギャロウグラスへ剣を突きこむ。  ギャロウグラスはその一撃をやすやすと躱した。すれ違いざま、賊の首へ右腕を巻きつける。  そして、例の骨が折れる音。  賊の男は、剣を持った腕を伸ばしたまま死んでいた。  ギャロウグラスが腕を離すと、力なくドサリと崩れ落ちる。  場を静寂が支配した。  不用意にギャロウグラスへ近づいた三人の荒くれ者は、ほんの数秒で絶命した。  公女オルネッタの無慈悲なエスコート、ギャロウグラスの真価はこの超人的な強さにあった。 「おぼえてやがれ!」 「ばけもの! ばけもの!」 「うわぁぁぁーっ!」  賊の生き残りたちは口々に喚きながら、馬で逃げ去る。  蹄の音が遠ざかると、オルネッタはほっと胸をなでおろした。  今回も、みごと危難を退けることができた。  ギャロウグラスは傷も負ってなければ、汚れもしていない。  わずかに乱れた金髪を手で梳いただけだった。  オルネッタは客室の窓越しに声をかける。 「馬車をだしてちょうだい、ギャロウグラス」  ギャロウグラスは立ったまま静かに言った。 「まだ特別報酬をいただいておりません」 「えぇーっ、ここでぇー?」  オルネッタは城では発したことのない声をあげる。 「もう、ホントにこの男は……」  ギャロウグラスが動かないので、オルネッタはしかたなく馬車を降りた。  城でのドレスとは違い、頑丈な旅装は地味な色合いだったが動き易かった。  外へ出たオルネッタに、ギャロウグラスは洋袴から細いを棒を取りだして見せた。  表面が滑らかで硬そうな木の棒だった。  オルネッタは尋ねるように、頭二つ分も背の高いギャロウグラスの顔を見あげる。 「今回は……」  ギャロウグラスは爽やかに微笑んで続けた。 「この滑らかな棒で、わたしの尿道を責めてもらいましょうか、プリンセス」  下品な報酬を望まれるのはわかっていたが、それでも予想を超えていた。 「はぁー……」  オルネッタは頬を赤らめながら、大きくため息をついた。  公女オルネッタの無慈悲なエスコート、ギャロウグラス。  魔神のごとき強さを誇るこの美青年はまた、常軌を逸した変態でもあった……。
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