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序章 2

   ……じっとしていても、汗ばむ季節だった。  開けられたままの窓からカーテンが風にたなびき、神秘的な月光がちらちらと部屋に差し込み、狼の筋肉質な背中を青白く照らし出す。 「あ……っ、んん、それ駄目っ」  わたしの身体は快楽に仰け反るが、広げたわたしの足の間に顔を埋めてうずくまる狼は、両手でがっしりとわたしの腰を抱き、頭を左右に振るようにして秘処に吸い付き、蜜をこそぎおとすかのようにぱしゃぱしゃと音をたてて舌を動かした。 「あああっ、あぁんっ、ああ……っ」  わたしの両手は義兄(あに)の頭を弄るようにして抱え込み、艶めかしい嬌声を上げる。  狼が秘粒の薄皮を歯で剥き、舌先でこねくり回しながら、蜜を溢れさせる熱く潤った蜜壷に中指を抜き差しすると、ざらついた膣壁は彼の指を締め上げながらひくつく。深層に至る前にわたしは甲高い声を出して、快感の頂点に一気に行き着き、びくんびくんと股を震わせた。  狼は僅かに顔を緩めながら、彫り深く整った顔を上げる。  荒い息をつくわたしの顔を覗き込むように横に寝転びながら、わたしの片足をぐいと持ち上げ、つい先ほどまで堪能した魅惑的な花園に、己の分身をぐぐっと埋め込んだ。 「あああ……」  猛って硬く息づいたそれの感触に、思わずうっとりとした声が出てしまう。  脳天まで痺れるほどの快感。留まったままの圧迫感にやがて物足りなくなると、狼はにやりと薄く微笑み、激しく擦り上げてくる。 「ああ……あああんっ、それ駄目っ、ああっ義兄(にい)さんっ」    喘ぐわたしをじっと見つめながら、彼はわたしに囁く。 「お前は義兄とこんなことをしているのか?」  わたしを揺さぶりながら、わたしの身体をよく知る義兄は意地悪くそういいながら、わたしの弱点をわざと焦らすように、突いてくる。  切ないような、攻撃的のような……そんな燃える目をしながらも、わたしを翻弄させて高みに上らせていく彼が、わたしの知らないオスになっていくのを見て、わたしの本能がぶるりと身震いをして悦んだ。 「ろ……う。狼っ」  睦み合いの時だけ呼ぶ、彼の名前。  口にすれば、狼は嬉しそうに艶めいて笑い、欲しかった部分に硬い先端で抉るようにしてねじ込んできた。 「あああああっ」  仰け反る身体。  汗ばんだ肌を密着させたまま、狼が悩ましく腰だけを動かしてくる。  それは深く、子宮口目がけて。 「真白……っ、……俺の子を……孕めっ」  彼がどんな気持ちで毎回そう口にするのかわからない。  本当にそう思っていたら、わたしに胃薬と称してピルを飲ませないだろう。  それでも――、生物的なわたしの中の女が大きくなって、彼の要求に応えたいと切に思うんだ。血が繋がっていないのだから、子供が生まれたら……本当の意味で狼と家族になれるのではないかと。  わたしの中を穿ち続ける、怒張甚だしい熱杭を強く搦め取り、彼の精が欲しいと奥に誘えば、彼は僅かに苦しげに目を細めて、わたしの首筋に唇をあてて甘噛みしてくる。  これは彼の果てが近い合図。  わたしは、より一層深いところで彼と果てようと彼の腰に両足を巻き付け、激しく腰からかけのぼるぞくぞく感に声を上げながら、長い黒髪を散らして彼の背中に爪を食い込ませた。 「狼、狼、あああ、あああ、もう駄目、なにか来る――っ」 「真白、俺も……ああ、くそ――っ」  身体を仰け反らせるようにして、びくんびくんと痙攣して果てるあたしを、さらにぎゅっと抱きしめた狼は、わたしの首に噛みつきながら、わたしの最奥に何度も熱い迸りを浴びせた。  ああ、なんだか幸せだ――。  白い意識の中、わたしは無意識にお腹を摩った。  直に肌を重ね合う関係になったのは、一年前からだ。  わたしには両親を含めた過去の記憶がなく、死んだ両親が引き取ったという……わたしを育ててくれた孤独を嫌う義兄だけが、わたしの世界だった。  血の繋がりがない寂しさを補うように身体を重ね、欠けたわたしの記憶を彼から求めるように、わたしの知らないわたしの過去を知る彼と、ひとつになるのだ。     こんなに繋がって、こんなに互いの息づかいを感じて、こんなに汗ばんだ肌を重ねても、それでもわたし達は、愛という言葉は口にしたことがない。  だから唇を重ね合うという行為もしたことがない。  そんなもの、必要がないから。  この行為は他人という恋人の行為ではなく、義兄だから義妹を満たし、義妹だから義兄を満たす――ただそれだけの、相互の愛(フィリア)だ。  相手を満たすことが出来るわたし達は、互いに特別な存在であることは間違いない。  わたしだって、狼が好きか嫌いかと言われれば好きだと即答できるし、好きか愛しているのかと聞かれれば、愛していると答えるだろう。  しかし、狼を恋人にしたいか義兄のままでいいかと聞かれれば、義兄のままがいい。  いずれ別れが来る恋人(たにん)に、なって欲しくないのだ。  義兄という、唯一無二の特別な存在でいて欲しいと思いながら、義兄をただの男として欲情して抱かれるわたしは、矛盾をはらんでいるのかも知れないけれど。  不均衡の中の均衡、危篤の中の小康。  どこまでも矛盾を抱えたこの幸せが、砂上の楼閣だと気づくのは……次の日のことだった。
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