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第45話 吏玖の謝罪

   リクと別れてマンションに入ろうと思っても、セキュリティ完備のマンションは住人の許可がなければ開かず、こんな時間、しかも不埒なことをして戻るには恥ずかしいと思いながら、ルームナンバーを押して呼び出すが、吏玖は出てくれない。  これは……寝ているか、居留守を決め込まれているのだろうか。  何度か挑戦したが、やはり応答がない。 「うわ……。また野宿?」  わたしは玄関の前で座り込んで、両手で顔を覆った。  その途端、また大雨が降って来て、さらに憂鬱になった。    頭を冷やすと言って出て言ったのはわたしだ。  だから吏玖が怒ってマンション立ち入り禁止にしていたとしても文句は言えないけれど、せめてそう言葉で言って欲しい。  無言の放置は、結構来るものがある。  まるで家出した不良娘が、親を怖れて家の中に入れない心境だ。  雨宿りが出来るのは、ルームナンバーを押す機械がある正面玄関だけ。  ずっとここにいるのもなんだと、向かい側のコンビニで夜を明かそうと飛出そうとした時だった。 「……真白!?」  信号機の前に行こうと方向を変えた、わたしの背後側から聞こえたのは……。 「吏玖さん……」  彼の姿を見て、ほっとする。 「今までどこに行っていたんですか!」  雨に打たれながら、彼は怒った声を出す。それがあまりに怖くて怯えるわたしに、彼は雨滴が流れる黒髪を片手で掻き上げながら言う。 「とにかく中に入りましょう」  家の主人が居るために、開かずの扉はいとも簡単に開く。 「大丈夫ですか、寒くありませんか!?」 「わたしより、吏玖さんの方が……」 「僕はいいんです」  エレベーターがすぐ来たために乗ると、吏玖がわたしの頬を冷たい掌で摩り、必死にわたしに熱を灯そうとしているらしい。 「ああ、冷たい。僕があなたを追い出したりしなければ。僕が早くあなたを見つければ。こんな夜雨の中を、ひとりで行かせてしまったなんて」  今は蒸し暑い夏なのだ。  そこに集中的豪雨が降ったところで、さほど凍えはしない。  むしろさっぱりと気持ちがいいくらいなのに、夜中何時間も探し回っていたのだろう、吏玖の少し疲労の見える悲壮すぎる表情に、居たたまれなくなる。 「わたしが勝手に出て行ったから悪いんです。吏玖さんはまるで悪くありません」 「いや、僕のせいだ。僕がおかしなことを口走ったから。さあ、着いた。このまま浴室に来て下さい」  家に着くと、彼はわたしごと浴室に行くと、浴槽にお湯を溜めながら熱い湯が降り注ぐオーバーヘッドシャワーで、服を着たまま温めようとする。 「わたしより、吏玖さんの方が」 「いえ、あなたの方です。僕は寒くもなんでもありませんので、どうぞゆっくり風呂を」 「わたしも暖かくなりましたから、吏玖さんの方が先に」  飛沫を浴びながら言い争いをするわたし達は、同時に言葉を切り、同時にくしゃみをした。  そして気まずい表情で相手の顔を見た途端、また同時にくしゃみをした。 「これは……本格的に風邪になっちゃいますね」 「吏玖さん、元々風邪気味でしたものね。もうお薬効果も切れちゃっているだろうし」 「あ……それはそれで。じゃあ一緒に入りましょうか」  シャワーに温まり紅潮している顔に、飛沫に濡れた流し目で彼は言う。 「裸で」  わたしは息を飲んだ。   ――僕が、あなたに不埒なことをしたいために、同棲したように。そうではないということを、僕はあなたに証明していきます。……誠意を、見せたいと思います。 「不埒なことをしないって……」 「はい。だから、一緒に浴槽に入るだけです。お詫びと仲直りの代わりに」 「………」 「僕の懺悔と謝罪を受けていただけますか?」 「………」 「駄目?」    吏玖が頼りなげな表情を浮かべ、首を傾げた。  その小動物じみた所作にわたしの庇護精神というか、母性本能というか、そういったものがきゅぅぅんと音をたてて、笑顔で許してしまう。 「駄目なはずないじゃないですか」 「そうですか、よかった」  邪気などなにもないというような聖人顔で笑う吏玖は、湯に張り付いたわたしのブラウスを脱がせ、中に着ているキャミソール……というには卑猥過ぎる、半透明というよりは透明なそれと、ほぼ紐と小さな布で出来た下着を見て、身体が凍り付いたかのように動かなくなり、絶句したようだ。
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