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第41話 見出した方向性

「あのさ。遠野の生き残りが狼だというのなら、なんで狼がマスターのことをと呼んでいたのかな。ううん、なの?」 「どうしてそう思う」    リクは神妙な顔を寄越した。 「夢で見た。小さかったはずの狼が、たくさんの死体の血を啜って、のよ。それって、遠野がマスターの眷属だからなの? あのダイヤ小僧とかは随分と幼く見えたけれど?」 「……あいつは、お前の義兄を名乗っていたあいつは、特殊だ」 「特殊?」 「ああ。マスターの細胞を元に作られた、言わばマスターの次期器。そうやってマスターは、古来より生き続けている」 ――お前はあいつらに復讐を誓う我が器として成長を早めよ。  ……そう。  夢の中にいたマスターと思われる男は、今の狼に似ていたのだ。  だが、今のマスターは不気味過ぎてよく顔の造作は覚えていないけれど、狼ほどの若さはなかって気がする。  ……狼が成長したら、マスターみたいになるのかしら。  目から赤い光出して、宙を飛ぶように走るの? 「SFじゃないんだよね?」 「ああ。至って現実的で人為的なものさ」  わたしは脱力して頭を抱えた。 「……頭痛い」 「鎮痛剤、買ってくるか?」 「精神的によ」  わたしは、じろりと笑うリクを睨む。 「お前さ、今……どうしてるんだ?」  不意に、リクがそう尋ねてきた。  ほんの少し、距離を縮めながら。 「ああ、面接が通って、会社の上司さんの家を貸して貰えることになって」 「……同棲?」 「同居」  するとリクは、ふぅん、だの、はぁん、だの不満げな声を出して言う。 「そいつ、いい男なの?」 「え? ああ、凄くいい男よ、優しいし頭いいし」  あなたと同じ顔をしているとは言わなかった。 「……惚れた?」 「まだ」 「ということは惚れる予定?」 「さあね」  リクは誤魔化すわたしの腕を掴んだ。  いつの間にか雨は止んでいる。 「お前、ちゃんとそいつに自分の本音を言えてるか?」 「言えてるよ?」 「……俺にみたいに?」  リクの眼差しは切なそうな光が浮かんでいる。 「そこまでは。だって吸血鬼とかそんなこと言えないじゃない。それに上司だし」  その上司とえっちなことをしてしまったけれど。 「だったら、お前のストレスはどこに発散される?」 「ストレス? また妙なことを言い出すね」 「お前がそいつに言いたいことも言えずに、顔色を窺っているというのなら。……夜、ここに来いよ。帰り、送ってやるから」 「……」 「真白、俺はここで待っている」 「……」 「なにか言えよ、そんなしかめっ面しないで」  皺が刻まれた眉間を指で弾かれた。  そこは急所でしょうが。 「いや、なんか……キャラ違うなって」 「え?」 「リクはわたしの日常に一方的に切り込んで来た。そのリクがアフターフォローするなんて」  するとリクは少し顔を赤らめて髪を掻いた。 「そりゃあ……」 「そりゃあ?」 「別にいいだろう? 気まぐれでも同情でも適当な言葉を使っていいから」 「……じゃあ来ようかな、ここどこだかわからないけれど」 「お前の今の家の住所は? そしたら迎えに行ってやる」 「え、本当? どうしたのその太っ腹」 「うるさいっ」  真っ赤な顔をしたリクが怒る。  ……正直、リクと離れようとしていたわたしだったけれど、マスターの存在が釈然としたわけではなかったから、もう少しリクと話してみたかったのもある。  わたしはこう考えたのだ。  本当に事件は、狼だけが引き起こしているのかと。  血を吸う者が他にもいるのなら、そいつらが事件を引き起こしていないかと。  いまだわたしは、狼の吸血行為を信じたくない。  彼だけは、マスターとは違う種なのだと信じたいのだ。  わたしの悪夢が真実だったとして、あの少年が狼だったとして。  本当に過去、狼がマスターを父として慕っていたとしても、そのために血を飲んでいたとしても、過去は過去で、わたしと暮らしていた今は別ものだと、信じたくて仕方がないのだ。  その論証には、わたしが生きているという証拠を掴まないといけない。  わたしが生きているのなら、彼は吸血行為をすることもない。  事件を引き起こしたのがマスターや眷属であるのなら、狼は吸血していないというのなら、それはイコールわたしを生かす行為をする必要性がなかったと言える可能性が高くなる。  幸か不幸か、狼は正確な答えを口にしなかった。  だとすれば、彼が言えないだけで、本当は違っている可能性だってある。  確率はフィフティーフィフティー。  吏玖を守ろうとするわたしは、生きている人間でいたい。  正々堂々と、彼を生かしてあげたい。  そこにも繋がるのだ。  彼はわたしと狼との絆の強さは、あくまでわたしの主観だとした。  違うと言えなかったのが悔しくて。  だったら、わたしは狼との関係に綻びはないのだと証明して、吏玖に告げたい。  わたしと狼は、強い絆で結ばれている義兄妹です、と。  昼間は吏玖と、夜間はリクと。  狼を含めて、すべてが繋がる一本道になるように。      
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