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第40話 マスターと眷属と

  「雨が怖いの?」 「知らない。が、大体あいつも眷属も雨になると不思議に引き下がる」 「眷属……」 「ああ。お前が会ったという、四賢者と本人達は名乗っている、四眷属のうちのひとり、あの気が狂ったダイヤ」 「……まさか、ハートやクローバーやスペードがいるの?」 「そのまさかさ。どれもが狂っている。そうじゃないと、そんなもん名乗らないだろう」  ダイヤ小僧だけではなく、男であったのなら……ハート小僧にクローバー小僧に、スペード小僧がいるらしい。 「まさか皆で示し合わせて、柄とか色違いの服装をしているとか……まではないよね、さすがに」 「その通りだ。しかしダイヤは赤、ハートは青、クローバーは黄色、スペードは緑らしい。とにかく滅茶苦茶な奴らだ。もう本当に、イカレちまっている」  リクが珍しく、疲れたようなため息をついてぼやく。 「だが、なんとか緑のスペードは捕らえて殺したから、現在三眷属しかいない」 「殺したって……」 「仕方がないだろう。それが不知火なんだから」  リクは美しいその顔で、子供のようにわかりやすくむくれた。 「眷属ということは、あのマスターだとかいう奴が頂点で、それを慕っているという図?」 「そうだ。マスターが血を吸って眷属に仕立て上げた、四家と言えばいいのか。元々は不知火と並ぶ同業だった。今じゃ狂ったあのトランプ集団しか生き残っちゃいない。あいつらが中世のために身内を殺して、マスターにその血を捧げたんだ」 「え、じゃあ木乃伊(ミイラ)取りが木乃伊になったという奴? あ、木乃伊じゃなくて吸血鬼か」 「そういうことだ」 「でもさ、遠野も吸血鬼一族なんでしょう?」 「ああ。遠野は中立を守っていた。だが当時の当主が反旗を翻してマスターにつこうとしたため、眷属になる前に不知火が滅ぼした」 「……なんか、映画とか小説みたいな話だね」 「ところがこれは現実の話だ」  リクは長めの髪を片手で掻き上げながら、首を傾げるようにしてわたしを見る。 「ところで、あいつの魅了眼(チャーム)は抜けたのか?」  「チャーム?」 「ああ。あいつは獲物を魅了出来る目を持つようにいる」 「……作られたって、あんなもの作った奴がいるの!? 誰に?」   ――私の血を縛る忌まわしき――…の飼い犬の不知火の術が、お前の血の衝動に破れる。  リクは苦しげな顔で、首を横に振る。 「言えない」 「どうして?」 「……今はまだ言えない」 「ひとつ教えて。マスターはサイボーグとか機械じゃないよね?」  するとリクは馬鹿なものを見ているような嫌そうな顔になった。 「そんなわけないだろう。どこのSFだよ」 「いやいや、もうSFでしょう。だって吸血鬼だよ!?」 「……でも魔物じゃない。この世には、光を手に入れるために、闇を産み落とすところがあるんだよ。そうやってプラスマイナスの均衡を保っている」 「……んん?」 「つまりは、生まれつき吸血鬼なんかじゃないんだ。吸血鬼に仕立てた奴らがいるということさ。そいつらがあいつらを作ったんだ」 「……随分難しいことを言うね。吸血鬼は吸血鬼じゃない?」  わたしは眉を潜めた。 「難しいか? この世には、魔物なんていやしないという、至極簡単な道理だが」 「なんでそう言い切れるの?」 「色々と確証や論証があるんだよ、不知火には」  ……つまり調べた人間が他にもいたということか。  彼はわたしと一定の距離を保っている。  それは……前回わたしが欲情したから、線を引いているつもりなんだろうか。  ……それほど、嫌だったのかな、わたしが欲情したの。 「どうした?」 「欲情した」 「え?」  明らかにリクは身体を強張らせた。 「冗談よ。そんな年がら年中発情していないから、動物でもあるまいし」  するとリクは複雑そうな、それでいてなにか悲しげな面持ちになった。  欲情されたら嫌なのか、嬉しいのかいまいちよくわからない謎の男だ。
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