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第37話 逃げた先のダイヤ小僧

  「あなたともしも兄妹の縁が切れたら。あなたと一緒に居ることをやめたとしたら。それでも狼さんは、あなたを庇護すると思いますか?」  怖い……。 「あなたを殺そうとする敵がいたとして。あなたと離れた狼さんは、あなたを守る側につくでしょうか?」  わたしが狼と離れたことで、わたしと狼が敵同士になる……そんなことは、微塵にも考えていなかった。  だからもしそうなったらと、その「もしも」を考えたら――怖かった。  ただ、狼がわたしのために吸血行為をしているのなら、そのために事件を引き起こしているというのなら、少しでもそれを辞めさせたいから離れたいと思っただけだ。  義兄妹の契りを切ったのは、敵対したいからではない。  ナンデ、ワタシトロウガテキニナルノ。  もし現実的にそんな真実が待ち受けているとしたら……。  最悪事態を考えてしまったわたしの目から、涙がぽたぽたと落ちた。   ワタシガロウヲコバンダカラ……?    止めようと思っても涙は止まらず、わたしは醜態をさらしてしまう。  それに吏玖ははっとして我に返ったようだ。 「あ、す、すみません……、真白を悲しませたいわけではなかったんです」  わたしを胸の中に掻き抱く吏玖を、わたしは反射的に突き飛ばしてしまった。 「……ごめんなさい。ちょっと、頭冷やしてきます」 「真白!!」 「ひとりにさせて下さい」  わたしは吏玖を置いて、バッグを手に取ると家から出た。  背後から声が聞こえたが、わたしは無視した。  わたしひとりの勝手な意見で狼と離れて、それによる弊害の可能性を認識させようとした吏玖が、恨めしく思えて仕方がなかった。  そして――。  わたしが、狼はそんな男ではないと否定出来ないことが、さらに悔しくて仕方がなかった。  吏玖と初めて会ったあの時なら、わたしは狼との切れない絆を滔々と語ることが出来たはずなのに。 「しまった。スマホ、上着に入れたままだった……」  夜の東京はまだ蒸し暑く、背広を着ていない今のシャツ姿でも快適とは言いがたく、汗がシャツを濡らして、下着が丸見えになりそうで怖い。 「ここはどこだろう……」  ネオンに彩られた大小様々な看板達が、いかがわしい店が建ち並ぶ界隈であることを主張している。  電信柱にある住所を見て驚いた。 「歌舞伎町!?」  吏玖のマンションからどう歩けば、新宿に来れるのか。  別に足は痛くないが、吏玖の家から出て三時間経っていた。 「無意識って怖いわ~」  よく変な男に絡まれなかったと思うが、こんな女、誰も相手にしないか。  自嘲しながら歩く時刻は午後十時。  もういい加減戻らないといけない。  戻る家があるだけ、わたしは恵まれている。  そう足を止め、俯きながら大きなため息をつくと、ざっと目の前に足音が止まった気がして、(おもむろ)に顔を上げた。 「はーい、可愛いお嬢さん。いいお店、紹介するよ!」  長めの金髪に、十代の少女のような可愛い顔をした若い男は、ピエロのように目尻に黒と赤のダイヤのペインティングをして、同じダイヤ柄の色違いを両耳からぶら下げていた。  頭の上にはツバの赤い、黒い軍帽。  身体は軍服ではなく、長袖の白いブラウスに黒いベストとズボンをきは、ブラウスの袖には赤と黒のダイヤ柄が散りばめられている。  これはコスプレ?  それとも、奇抜なファッションをしたモデル気取りのホスト?  こんなおかしな奴はダイヤ小僧でいい。
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