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第31話 逃げると追いかけたくなる

   直に触れる。  ひとつに重なる。  熱く汗ばんだ肌が。  背中に回される大きな手。  わたしの足の間を割るようにして、絡む彼の足。  わたしの肩に埋もれる彼の顔。  わたしと同じ甘いシャンプーの匂いと、彼の匂いが入り混ざり、それがわたしの鼻腔一杯に拡がって……切なくなるくらいに苦しい。  ぱぁんと弾け飛びそうなほど緊張して、気が遠くなりそうだ。  宙に浮いたままのわたしの手をどうすればいいのだろう。  嫌じゃないのだから、彼の首に回すべき?  乱れた呼吸をしながら、思い切って彼の仕掛けに応えるように、おずおずと手を回そうとして、わたしは気づく。  ……彼の寝息を。 「ふ……ぇ?」  すぅすぅと規則正しい寝息。  これは――。 「ええ? 寝てるの、なにもしないで?」  これは、だ。  本当に添い寝をさせる気らしい。 「なんで寝れるの?」  涙声になってしまったことは、責めないで欲しい。  同時に羞恥心が膨れあがり、居たたまれなくなる。  なにひとりでやる気満々だったのだろう、わたしは。  こんな不埒な女だったとは。  恥ずかしいと、しゅんとなったわたしの頬が彼の胸を掠めた。  ドクドクと凄まじい鼓動の音。  これは、落ち着いた鼓動を刻むわたしのものではない。  ……吏玖の心臓の音だった。  服を脱いでこんなにくっついて寝てみたものの、実はわたしと同じくドキドキしていることを悟らせまいと狸寝入りをしている……そういうことだろうか。  どうして、こんなにドクドクしているの?  ねぇ、少しでもわたしを意識しているの?  意識しているのなら、どうしてなにもしないの?  わたし、そんなに魅力ないのかな。  わたしは……いいのに、吏玖なら。  わたしの鼓動の音を、聞いてみてよ。     彼の胸に頬を擦りつけて、鼓動を聞かせようと胸を押しつけたら、彼の身体が遠ざかる。  そっちがその気ならと、もぞもぞと絡んだ足を動かし、もっと密着してみようとするが、今度は吏玖の腰だけが勢いよく遠ざかった。  ……そうか、下半身か。  下半身に触れられたくないのか。    わたしは、狸寝入りを阻止すべく、にまりと笑う。  それを悟ったように、心なしか吏玖の寝息が乱れたように感じる。    今度はピンポイントで、手を伸ばして彼の下半身を触れようとするが、やはり彼は逃げる。  完全に起きているんじゃないと思いながらも、触る触らせないの応酬には決着が付かず、わたしはがばりと起き上がり、意地になってその部分を触ろうと、痴女の如く堂々と手を伸ばすのだが、吏玖はころころと体勢を変えて逃れた挙げ句、むくりと起き上がった。 「あなたはなにを!!」  白皙の彼の身体は、顔と同じように真っ赤だった。  上体を完全に起こしながらも、布団を巻き付けて下半身を隠す。  見せたくないなにかがあるのだとばればれだが、なにか悩ましい。 「どうして触らせないんですかね?」 「どうして触ろうとするんです!?」  吏玖の声がひっくり返る。 「別に触りたいわけではないんですけれど、そこの部分だけくっついていないのが気になって。添い寝担当とすれば、身体全体でくっついて貰わないと、気になるというか」  若干事実を曲げて言うと、吏玖の顔はさらに赤くなる。  なんだろう、ぞくぞくする。  わたしの加虐的な心が刺激されてしまったようだ。 「だから、触らせて下さい」 「……っ」 「吏玖さん?」  にやりと笑った直後、わたしは吏玖に後ろから抱き付かれるようにして、横になる。  彼の手がわたしの胸の下とお腹に回り、足の間を割るように片足を割り込んだ吏玖は、ぐいぐいと逃げていた部分をわたしに押しつける。 「これで、いいですか?」  彼の下着越しだというのに、それは大きく存在を主張していて、彼が男だということを今さらながら感じたわたしは、一瞬呼吸を忘れてしまう。
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