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世間知らずの身の程知らず。四

まとまらない私の言葉を聞いて、そう一言だけいうと手を差しぼべてきた。 その手を、おずおずと掴むと優しい手つきで立ち尽くす私の足から靴を脱がす。 「じゃあ、お腹の赤ちゃんが聞いちゃうと心配するので、謝るのは止めましょう。生まれてくれてありがとうってそんな優しい言葉だけ届けましょう」 「デイビットさん」 「で、出来たら私にも優しい言葉を下さい。プロポーズの返事、聞いてもいいですか?」 跪き、私を見上げる碧色の瞳が揺れる。 暖かいその色が、私の言葉を涙に変えていく。 「こ、わいです」 「知らない世界に飛び込むのは、経験のない貴方は怖いでしょうね」 「私、――できるのかな」 「招いた私が、ずっと守りますから。怖いなら、泣いてしまいなさい。その涙、全て私にぶつけて下さい」 手を取り、ソファに座ったデイビットさんの膝の上、向かい合わせで座る。 デイビットさんの香水に交じった汗の匂いが、あの日の夜を色鮮やかに思い出させる。 「触れても、良いですか?」 この状況でまで、私に決めさせるなんてずるい人だ。 でも、この声も瞳も、匂いも優しい腕も好き。――止められない。 「抱き締めてください」 そうお願いすると、丁寧で紳士なデイビットさんが一瞬、荒々しい動きで私の後ろ頭を引き寄せる。 「泣いてもいいですよ。私は、ずっとここに居ます」 頬に触れて、そう語りかける。 此処には、父の書斎から見える桜の木は無い。 此処には、私を縛り付けるものは無い。 自由すぎるその先に、私が一人迷子にならないようにと、傍に居てくれる。 知らないその先は、怖いけど貴方との夜は、この先もずっと忘れない。 おずおずと肩に両手を置いたら、デイビットさんは蕩けるような笑顔で私に口づけを落としてくれた。 瞼に、頬に、首筋に。 私も嬉しくて……涙が溢れてきた。 怖くて嬉しくて、優しくて温かい。 そんなキスに私は目眩を感じる。 「美麗!?」 「そんな、ドキドキさせないでください」 その熱さに、不慣れな私はへなへなと倒れてしまったのでありました。
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