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第17話

「あ…にうえ…」    イシリスは後退りした。だが馬車の中、その距離は知れている。  驚愕に見開かれたエメラルドの瞳に恐怖が滲む。 「その首に何を隠している?可愛い妹よ」  はっと、イシリスは首に手を当てた。クロサイトに噛まれた傷跡があるはずだった。  だが、そこには傷一つ無い滑らかな肌があった。 「!?」 「そんな子供騙し、我を愚弄しているのか。…ふ…くだらん」  イシリスの腹違いの兄、レイベンは怒りとも、笑いとも付かぬ声音で言うなり、イシリスに手を伸ばした。  その細い首をすんなりと片手に捕まえると、強引に引き寄せた。 「…あっ…兄う…え…」  見開いたエメラルドの瞳を覗きこみ、レイベンは唇を吊り上げ笑った。  掴み上げる指を剥がそうと、イシリスは力を込める。だが、震えた指先は冷えるばかりで役に立たなかった。 「この傷…お前には分からぬか、妹よ。憂いやつ…」  レイベンは耳元に唇を寄せ、囁くと、その首筋を舐め上げた。  傷のあったはずのその肌の上を。 「…ぁっ、…あ、あ…っ…」    熱い痺れが、首筋を襲う。  何か熱いものがその後に滴るのをイシリスは感じた。 「たかが吸血の分際で。この身体に触れるなどと…なぁ、イシリス?」 「ぁ…あ…に…うえ…」  紅い滴が、首から胸元に落ちた。  首筋を滴っているのは血だった。 「それはどんな男だった?イシリス。この血の香り…お前のものにも引けを取らない。さぞ、甘かったろう?」 「あ…あに……ぁあっ…」  許しを請おうと、その顔を見上げると同時に、背中を包んでいたドレスの絹を思い切り引き裂かれた。 「背を…見せてみよ」  抱かれるように引き寄せられ、うつ伏せに倒される。  背にかかる銀の髪を掻き揚げられると、ひやりとした指の感触がした。 「や…あに…許し…、……!!」  同時に、それは灼熱の痛みへと変化した。 「…っ…ゃあああっ!!」  レイベンの指がイシリスの背をなぞるたび、イシリスは幾度も背を反り返した。  針で突かれるような痛みが、イシリスを襲っていた。  背に施された術を読み返すと、レイベンは低く喉を鳴らした。 「くだらぬものを…奪えるものならば、奪ってみるがいい。…くく」  レイベンの指が、露になったイシリスの秘所をなぞる。 「…ぁっ!」  冷め始めていた体の熱を呼び覚まされた様な錯覚に陥る。 「ゆっくり…聞かせてもらおうか?もう一度、この身体に…」 「…あ…あに…うえ…」  漆黒のベルベットを握り、イシリスは目を閉じた。  脳裏に浮かんだのは、紅。 「誰を思い浮かべている…?可愛い妹よ…」 「だ、誰も…、私は…」  裂かれたドレスの中へ、白くしなやかな指が辿る。  銀の、秘所を隠した茂みへ、指は入り込んだ。 「あ…っ、あに…上…!」 「この匂い…お前のこの蜜と混じる、雄の匂い…」  ヌプリ、と音を立てて入り込んだ指が引き抜くのは、クロサイトの残した精の残滓。    イシリスが目を瞠らせると、レイベンは唇を釣り上げた。
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