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第13話

「悪趣味なやつだ。…相変わらず」  言って、その蚯蚓腫れに口付ける。クロサイトの舌が肌を舐め上げると、ひゅっと喉をならし、イシリスが叫びを上げた。 「いやぁあああああっ…」  ガクリと地に伏したイシリスの体を、片腕に抱き寄せる。力を失った体を背中から抱き上げる様にすると、クロサイトは首筋に唇を寄せた。 「目覚めろ」  吸血の痕に舌を這わせると、イシリスの伏せられた瞼が震えた。 「イシリス」  その鋭い犬歯が、再び柔らかな肌に食い込んだ。 「っあ…!!」  痛みが体を奔り、イシリスは瞳を開けた。  背中越しに抱き締められ、イシリスはその腕を放そうともがいた。 「なに…おまえ…なにを…っ」 「女らしくしろと言っただろう。あの男の前のように」 「な…」  裸の胸を柔らかく包む手を、必死に剥がそうとするが、縺れて無駄に終わった。  頬を染めたイシリスは顔を伏せる。 「…か…『狩り』の続きを…しろ」  小さな唇から、蚊の鳴くような声でイシリスは告げた。 「『狩り』?…そんなもの、疾うに終わっている」 「…!?なんだと?」 「招かれざる客がいる、といったろう。…俺が、疾うに仕舞いにしている」  クロサイトは片手に持った短剣を闇へ放った。  月光の輝きを返すそれは倒れた先ほどの死骸に突き刺さった。  呆然と、イシリスはそれを見た。 「おまえ…なにものなんだ。なぜ、私を…」 「闇の王とやらを…その手にしてみたいとは思わないか」  クロサイトの指が、イシリスの顎を掴む。ゆっくりと撫で、そして唇がその耳朶を噛む。 「やめろ…!お前、誰のものに手を出しているのかっ…」 「闇の王に代わるという獣とやらか?くだらん」  柔らかく、その大きな手が丸い胸を掴む。イシリスは息を殺して首を振った。 「こっ…この背にあるだろう…!意味をしらないのか!?」 「そんなもの、すり替えてやった」 「すり替え…?」 「奴にこの背を見せればいい。全てわかる。…それよりも、イシリス」  耳朶を噛んでいた犬歯が首筋に降りる。小さな二つの牙の跡に、クロサイトは舌を這わせた。 「…あ…っ」  舌が傷跡をゆっくりと舐めあげると、イシリスは体を震わせて熱い吐息を吐いた。 「…やめ…ろっ」 「お前のその孔雀と、俺の血の力だ。ゆっくり味わえ」
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