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第12話
初めてではなかった。
イシリスは、幾度となく、その味を味わっていた。
実の兄の、その血を。
男は、切り裂いたイシリスの上着を乱雑に剥ぎ取り、その胸元に顔をうずめた。
柔らかなイシリスの胸にゆっくりと舌を這わせた。
その白い肌に、紅い滴りを残しながら。
「…う…。……に、うえ…」
冷たい石畳を、直に肌に感じながら、イシリスは仰け反った。
「やめ…もう、許し…あに、う…え…」
男は、その顔を上げ、イシリスの顔を見た。
うつろな孔雀の瞳を覗くと、イシリスは男の顔を引き寄せ、静かに口付けた。
「兄…上…」
いま、イシリスの体を支配しているのは、兄。幾度も、そうしてきたように、何時もの様に。
そうイシリスは幻惑の中にいた。
絡みつく黒髪が、己の白い肌にまとわり付く。
細い腰を抱かれ、幾度も、甘い痺れが体を突き上げる。
(もっと俺をよろこばせろ、イシリス)
何時もの様に、己に無理強いを如き、身体を支配する兄。
「い…や…も…う、許し…」
「…違うだろう?俺を見ろ、イシリス」
「あに……なに…?」
「俺の名はクロサイト、だ。…イシリス。その男とは、違うだろう?」
「…あに……、…なに…」
クロサイト、と名乗った男はイシリスを石畳に横たえ、その体を裏返した。突っ伏したイシリスは震える腕で、逃れようと、這う。
「イシリス」
小さな背中に刻まれた、幾筋もの、爪研ぎのような傷跡。
そっとなぞると、ビクリとその細い体が強張った。
同時に、傷跡は滲み、蚯蚓腫れの様に腫れ上がり、文様となった。
呪いの言葉が、そこには浮かびあがっていた。
「…ぁ…っ…熱…いっ…や…っ」
頭を振ってのたうつイシリスをクロサイトは上から押さえつけ、背に流れ落ちた銀の髪を掻き揚げた。
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