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第10話

「はなせ…!!」   イシリスは苛々としていた。  むしろ、殺されたかった。そうすれば、あの城に帰らなくてすむ。  だが、それを赦さない様に男は笑った。  銀の瞳が細められる。 「面白いことを教えてやろうか」  男は掴んだ胸倉を持ち上げる。軽々と、狼が捕らえたウサギを咥えるように。 「この『庭』は招かれざる客がいた」 「なに…」  不意に男は血を流したままの手首をその唇に当てた。  そして、そのままイシリスの唇へとその唇を押し当てた。 「!!」  甘い液体が口内に充満する。  男の舌が、イシリスの舌を強引に弄ぶ。  イシリスは、それに思い切り噛み付いた。  退くと、思っていた。命さえ奪われかねない行為だ。    だが、男はさらに深く舌を滑り込ませてきた。 「…ん…っ…う…」  蹂躙されるまま、イシリスは閉じていた瞳を開いた。  銀の、鏡の様に輝きを放つ瞳がそこにはあった。    その双眸の中に映る、エメラルド。  しまった。  イシリスには最強であり、最大の弱点があった。  孔雀の瞳。  他を蟲惑する瞳。それは、己にもその力を及ぼした。  蟲惑をかけた相手の瞳に映る己の瞳。  それが、イシリスの弱点である。  グニャリと、視界が歪む。 「…っ…は…」  封じられていた唇を離されたが、イシリスには意識できなかった。 「『でき損ない』と聴いていたが、まさかここまでとはな」  掴んでいた胸倉を、男はあっさり手放した。  冷たい石畳に、イシリスは体を叩き付けた。  痛みも、何も感じない。  誰かがボソボソと耳元で喋っている。イシリスにはそう感じた。  キラリと、何かが光るのを薄っすらと視界に感じた。  男の握った短剣だった。男はそのまま、イシリスの胸元を引き裂いた。 「…っ」  痛みは無い。  服を、斬られた。 「やめ…ろ」  男は斬ったその服の下に隠されたイシリスの秘密を暴こうとしていた。  ピッと、その端を斬る。 「やめろ……!!」  露になったその胸。  隠していた、その膨らみ。  この世で唯一、己の兄のみが知る秘密。 「は…まさか、と思っていたが、そのまさかとは、な…」  男の指が、裂かれた服の合間を這う。  その丸い曲線を描く体の線。 「やめ…触る…な…!!」  イシリスの美しい貌を引き立てる、その美しく柔らかな体。 「女…か」
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