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第9話
「何を笑っている」
胸倉を掴んだ男がイシリスの顔にかかった髪を掻き揚げた。
エメラルドの輝きが、男の双眸を捕らえた。
白銀の瞳だ。
鋭い、凍った湖を思わせる銀の輝き。
孔雀の瞳が、それを掴まえた。
まだ、死ぬことは許されぬようだった。
「美しいな」
月光に照らされた男の顔は整ったものだった。
美しいその唇は吊り上った弧を描いていた。
「これが呪われるという孔雀の瞳か」
「…!!」
男は身を屈めるようにしてイシリスの瞳を覗く。
蟲惑が効いていない。
「な…ぜ…」
イシリスは嫌な予感を覚えた。
孔雀の瞳が効かない者がこの世にはいる。
イシリスの腹違いの兄。
もう一人は、まだ見ぬ闇の王、イシリスの父親。
イシリスは鈍痛の響く首を動かし、空を見上げた。
そこには月があった。
違う。
この男は少なくとも己の父親ではない。
やつは、月蝕の晩にしか現れないと聴いた。
ならば、これはなにものだ?
見知らぬ男が、気安くこの瞳を覗き込んでいる。
「はなせ…!」
短剣は、至る所に忍ばせてあった。
掴まれた腕が脱臼することも臆さず、無理矢理に腰から隠した短剣を抜いた。
その掴まれた腕を。その掴んだ手首を。
今度こそ間違いなく斬った。
手放された腕がだらりと、落ちる。
男の手首から噴き出した血が、イシリスの頬を濡らす。
だが、胸倉は掴まれたままだった。
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