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第8話

 見れば、紅く染まった外套を放り投げつけられた。顔面に受けたイシリスがそれを除けると、目の前が真っ赤に染まっていた。  男の髪だった。  燃えるような、紅蓮の赤。男の腰まで届くその髪はイシリスの胸元で揺れていた。  こいつ、巨人か。  とっさに、イシリスは眉を顰めた。  単に、長身なだけである。  身長の低いイシリスは見下ろされるのが嫌いだった。  城の召使たちは常に身を低くしてイシリスを見送る。イシリスを見下ろすのはいつも、兄だけだった。 「賞金首がのこのこ現れるとはありがたい。やはり…近くで見ても小さい……」 「ほざけ!!」  腹の虫が脳天に昇ったようだった。  怒りのあまり、間合いも無いまま胸元の短刀を引き抜いた。  頭二つは違う男の喉下を狙ったつもりだった。  獲った。  手ごたえはあった。  が、  斬ったのは、先ほど男が倒したその首だった。 「なに…っ…」 「小さいのは背ばかりではなさそうだな」  耳元で、囁かれる低い男の声。  同時に、首を包んでいた襟巻きを強引に破り去られる。 「なにす…っ」 「孔雀か。その瞳の力とやら、見せてもらおう」  強引に掻き揚げられた髪。  気付けば、後ろ手に囚われていた。  ヒヤリとしたものが押し当てられるのをイシリスは感じた。  そこに、灼熱の痛み。 「…っああっ…」  覚えがある、その痛み。  脈打つ頚動を遮る力。  吸血。  ゴクリと、己の血を飲み干される音をイシリスはその耳元で聞いた。  処刑台の斧が振り下ろされる様をイシリスは思い描いていた。  こいつが『監視者』か。  新手の、初めて遭遇した類の者だ。  舐めていた。吸血の中にも、力を持つものがいたのだ。  脚の力が抜けていく。  意識が揺らいだ。  あの『城』に帰ることもなくなったのだ。  イシリスは、ふと、無意識に笑みをこぼしていた。
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