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第4話

 耳元で、風が吹き抜けた。  振り返ると、闇が、大きな窓から傾れこんで来た。  様に見えた。  実際は違った。窓から入り込んだ吹き荒ぶ風が、吊るされた蝋燭を、飾られた蝋燭を、全て舐めて消してしまったのだ。  好条件だった。  人間は明かりなしでは動けない。  同じように、魔のものも、闇の中では人の形を留めてはいられないのだ。  人の形を留めておけるものは、人間の血を引いているもの、または、元、人間だったものだけだ。  イシリスは、前者である。しかし、夜の王である魔王の血を父に持つイシリスにも、弱点はあった。  最強のはずの、孔雀緑の瞳。  全てを誘惑するそれは、まだ年嵩の無いイシリスにとっては鏡にもなった.  エメラルドの輝きは、闇の中を奔った。  人の無いところへ、魔の届かないところへ。 『監視者』のところへ。  イシリスは回廊へと飛び出した。すでに、『狩り』という宴は始まっていた。  アーチ型の影と、月光の合間に、人と、そうではない何かが剣とその牙を交えていた。走り去ろうとしたイシリスの目の前で、人である方の剣が音を立てて折れた。  雄叫びを上げ、止めを刺そうとする人ではない何かが、倒れた人間へと襲いかかる。  人間の上げた叫び声と、視界の端にその姿を見たイシリスは思わず足を止めた。
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