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第1話 キスしたことある?(9)

 月が見える。  満月だ。  可憐は何時の間にか自分のベッドに横になっていた。  何かの夢を見ていたような気がする。  懐かしい、遠い昔話をしたような。 「虚月様…?」  起き上がれば、まだ目眩がした。 「本当、落ちこぼれだな、私…」  噛まれただけで、気を失うなんて。 「怒られてばっかりだし…」  ふと、香島の顔が浮かんだ。 「あの人、そんな…」  本当に後を貼けられていたのか。  どうして、そんなことを。  虚月は、貼けられた自分の後を追ってくれていたのか。 「虚月様…」  あの、穏やかな表情。  初めて見た。  きゅうっと、胸が苦しくなるのを、可憐は感じた。 「あ、れ?」  胸を押さえて、可憐は首を傾げた。 「なんで?」    可憐は、寝ようとしたが、眠りに落ちることができなかった、  銀の月が、眩しかった。  目を瞑ると、浮かび上がる姿。広い背中に流れる銀の髪。  虚月。  今晩は、身体を求められないのか。  ほっとしたような、落ち着かないような。  可憐は、自分の気持ちに名前をつけられずにいた。 「お水、飲んでこよう」  部屋を出て、台所を目指した。  闇の中に、全てが沈んでいた。 「…虚月様…どこ?」  呼んでも、返事がないことは当たり前だった。  諦めて、手探りに廊下を行き過ぎようとした。 「呼んだか」    闇のなかで、低い声が響いた。
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