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第1話 キスしたことある?(7)

 虚月が立っていた。  一瞬、見間違えたかと可憐は思ったが、それは黒髪になっていたからだった。  銀の髪が、美しい黒髪になっている。瞳も、同じ漆黒。   が、間違いなく虚月だった。 「嘘…いま」  名前を呼ばなかったか。  可憐が、驚いていると、虚月は香島に近づき、スーパーの袋を取り返した。 「すまない、これは私の連れで。可憐、迎えにきた」  驚いた可憐がその顔を見れば、虚月は薄っすらと笑みを浮かべている。  こんな穏やかな表情は、初めてである。  食い入いるように可憐がみていると、香島は人懐こい笑みをこぼし、虚月に頭を下げた。 「そうでしたか。良かった。男性がそばにいれば安心です。それでは可憐さん、また」 「あ、ありがとうございました…」  可憐もおずおずと頭を下げる。  香島を見送り、その後ろ姿が見えなくなると、虚月は可憐を置いて先に歩き出した。 「あ…、虚月様…!」  急いで追いつくと、虚月は冷ややかな視線を可憐に向けた。  「これは『貸し』にしてやる、小娘」    やはり、聖職者との接触は、良くなかったようだ。  家の前に着くと、細長い人影が門の前に立っていた。  人影は、虚月と可憐を見つけるなり、頭を下げる。 「お帰りなさいませ。我が主よ」 「澪さん…」  可憐は、人影を澪と呼んだ。  長い黒髪を一つに束ねた、白い肌の女とも、男とも見える、中性的な者が、そこに立っていた。  澪は、数人存在する虚月の使い魔の一人で、よく可憐の前にも現れる一人だった。  澪は何も言わず虚月からスーパーの袋を手に取ると、頭を下げた。すっと、そのまま闇に吸い込まれるように消える。 「あ…買い物袋…」  持って行っちゃった…。可憐がその消えた闇を見ていると、虚月が、可憐の手を引いた。 「あ!虚月、様…?」  玄関を開けた虚月に、その中へ可憐は引きずられるようにして入った。  音も無く、だが勢い良く玄関の扉が閉まる。 「虚月、様?」  真っ暗な家の中、玄関先だがふと顔を上げると、すぐ目の前に虚月の美しい顔があった。    髪は銀に戻り、瞳も紅に輝いていた。 「小娘、どういうことだ」 「あ、あの…、香島さんとは、あそこで会っただけで…何も…」 「ほぅ、数キロ貼けられていたのが、何も、か?」 「えっ…」  驚く可憐と、虚月の前に、澪が現れる。 「小娘…、本当にお前は俺の使い魔か?」 「ご、ごめんなさい…でも、本当に?あの人が?」 「主はお前が後を貼けられているのを知り、あの男に声を掛けたのだ、あの男は…」  澪が、可憐に告げる。 「澪」 「はい…失礼しました」  虚月は澪の言葉を遮った。澪は、再び闇に消える。 「え?虚月様、どういう…」 「黙れ、小娘。『貸し』は返してもらう」  虚月の唇が、弧を描く。 「え…」  虚月は、言うなり可憐を玄関に押し付けた。 「待っ…て、こんな、ところ…で、…ん…」  可憐の首筋を、虚月は舐めあげる。温かな濡れた感触が、可憐の身体から力を奪う。  そのまま、虚月は可憐の白い肌に牙を立てた。 「…っ、ぁ…」  ブツリ、と音ともに熱が、全身に広がる。 「ん…、いゃ…」  目を開けば、闇に銀の輝きが見えた。  だが膝から力が抜け、あっさりと虚月の腕の中に可憐は落ちた。  小さな可憐の身体を抱きかかえ、虚月がどこかへ歩きだす。   視界は歪み、闇の中を可憐は流れていた。
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