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第1夜 キスしたことある?(6)

 遠くに落ちていく夕日を見送って、可憐は、冷えた両手に息をかけた。  息が白い。 「寒い…」  まだ、バスは来ない。  このままでは、家に帰るまでにとっぷりと夜になってしまう。 「虚月様はどうせ夜まで帰らないから、ゆっくり帰ろう…」  バス停の椅子に腰掛け、そっと空を見た。  満月が、浮かんでいる。 「もう、二年か…」  もうすぐ、誕生日が来る。  虚月と始まった奇妙な同棲生活も、二年目に入ろうとしていた。  隣町での買い物を終えた可憐は、スーパーの袋を持ってのろのろと歩いていた。 「結局、歩いて帰ってきちゃった…」  月をぼんやりと見ていたら、歩いていた。  銀色の月は、虚月を思わせる。 「虚月様…」  一言、その名を呟いてみる。  どうして、私には心が通じないのだろう。 「重そうですね」  突如、背後から男の声がした。 「?」  振り返ると、そこには穏やかな笑みを浮かべた男が立っていた。  背が高い。その身を、黒服に包んでいる。 「光島さんの、お嬢さんですよね」 「そ、そうです。あなたは…?」 「この近所にある、教会におります、香島と申します」  見れば、聖職者らしい服だった。 「しん、ぷ、様…?」 「まだ、僕は見習いです。最近、配属されてきたばかりで…」 「そうだったんですか。…て、ぁ…」  可憐は口元を押さえて、黙り込んだ。  吸血鬼と、聖職者って、相性悪いんじゃないのかな。  ということは、この男はもしかして、自分を倒しにきたのか。 「…どうか、しましたか」  怪訝そうな表情の男を前に、可憐ははっとした。 「い、いいえ。どうして、私に声をかけられたのかな、って…」 「荷物が重そうでしたので、少し、お手伝いをしようかと」 「え?」  驚く可憐を前に、爽やかに笑って、香島と名乗る男はスーパーの袋を手に取った。  道はこっちですか?と先を行く香島の後を可憐は追った。 「あ、あの…!大丈夫です、もうすぐ家なんで…!」  慌てて、その裾を掴む。  どうしよう、こんなところ虚月様に見られたら。  吸血鬼である虚月と、聖職者が本当に水と油なのか可憐には分からなかったが、まずい予感がする。  見つかる前に。 「あ、あの…!」 「はい?」  香島が、振り返った時だった。 「可憐、遅かったな」  背後から、聞き覚えのある低い声が響いた。 「あ…」
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