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第1夜 キスしたことある?

「ねえ、キスしたことある?」  親友の美菜が、突然口にした。 「えっ…?」 「あー、ダメダメ。美菜、この子に何聞いてんの。可憐は奥手だから、そんなのあるわけないっしょ!ね、可憐?」  隣に座ってイチゴ牛乳を飲んでいた里沙が、手を振って代わりに答える。 「え…、あ、うん」  自分でも、よくわからない答えを返してしまった。  本当はイエスだが、ノーと伝わって欲しい。 「でも、見ちゃったんだよねー、可憐、誰かと歩いてたでしょ、この間!」 「えっ、誰と!誰と歩いてたんだ!秘密なんてずるいよ!」  親友二人はお昼ごはんのパンを机に置き、こちらに詰め寄る。  鼻息がいつになく荒い。 「ちょっ、ちょっと待って、それ本当に私だったの?」  心当たりが無い、わけがなかった。  見られていたのか。 「え…」  美菜の前のめりが、自信を失くしがちに少し下がる。 「ちょっと、美菜、あんた見間違いじゃないの。今日のあんた、ちょっと変だよ。キスとか、どしたの」 「そうそう、あるわけない」  頷いて、美菜を見る。 「そうか、でもこの学校の制服着ててさ、可憐みたいな髪の長さで…、それが、一緒にいた男が、超イケメンだったの!」 「え、顔、見たの!」  それはまずい。  彼にそれが分かったら、タダでは済まない。 「見ない!後ろ姿だけよ!」  美菜は力を込めて宣言した。 「は…?」  思わず、理沙と顔を見合わせた。 「後ろ姿で分かるよ!イケメンって!」 「はいはい、で、本当のところどうだったの、可憐ちゃん?」  適当に相槌を打って、里沙はこちらを見た。適当な割には、目が鋭く輝いている。 「え…と、私が…?イケメンと…?」  二人は舐めるように上下に可憐を見ていたが、ため息を吐いて椅子に座り直した。 「はいはい。顔はともかく、こんなお子様体型の女子、凸凹が無いのに、男が引っかかるわけがない!」 「えっ!そこ!?」  握りつぶしそうになった牛乳が手の中でブスっと音を立てた。 「何よ、じゃあ、本当はどうなの」 「ありません…」 「胸は」 「ありません…」  なんで責められているのか可憐は分からなかったが、取り敢えず話を逸らすことはできて安堵していた。  よかった。  彼に見つかっていたら、夜、一睡もできなくなるところだった。 「あ…チャイム…」  可憐は残りの牛乳を飲み干す。  チャイムが鳴り、にわかに教室の中が騒がしくなった。  あとは、午後を過ごして、帰るだけだ。  ちょっと足を伸ばして、帰りは隣町のスーパーに行こう、可憐はぼんやりと考えた。
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