16 / 26

第1夜 キスしたことある?(16)

 可憐は、光の中に居た。  ここは、何処だろうか。  眩しい。  朝が来たのだろうか。  なんだか、酷い夢を見たような気がする。  悲しくて、でも、泣けなくて。  虚月が来るまで、そんな毎日だった。  暗闇を、ずっと、丸くなって待っていた。  無理をさせられても、それは、温かかった。  虚月様。  その強引な指も、好きだった。 「…こ…つ、さま…」  喉を込み上げた声で、可憐は目を覚ました。  眩しい光が、目を差す。  ああ、また、ここか。可憐は思った。 「目が覚めましたか、可憐さん」  聞き覚えのある声が聞こえた。 「…、香島さん?」  覗き込むように、香島の顔が見えた。  香島の穏やかな微笑みで、可憐はほっと息を吐いた。 「そうです」 「あれ…でも…」  確か、彼は。  虚月の手にかかり、消えたはず。  首が落ち、黒い光と、灰になって消えた。 「僕は、そう簡単には死ねないんですよ」  可憐の心を読んだかのように、香島は答えた。 「あなたもですよ、可憐さん」  香島が、可憐の胸元に手を置いた。  可憐は、何の事を言っているのか、思い出した。 「どうして…?私…生きてるの…?」  可憐は、胸元に触れる。  虚月に、ひと突きにされた左胸は、傷一つ残っていない。  可憐は、幽霊になったような気がした。  もしかしたら、ここは天国なのか。 「残念ながら、天国には行けませんよ」 「え…」 「ここは、教会です。そして、あなたが、帰るべき場所。あなたをお守りできる、たった一つの聖域」  起きて下さい。そう言って、香島は可憐の手を取った。  可憐は、促されるままベッドから降りた。  白いネグリジェを引き摺るように、香島の後に着いた。  長い廊下には、ステンドグラスの光が差し込んでいる。  優しく見下ろす聖母の姿。  誰かに似ている、と可憐は思った。 「ここは、あなたが先の戦いで居なくなった後、この遠い国へ運び、建て直したものです。何も、変わっていないはず」 「戦い…?」 「そう」  香島は、懐から、何かを取り出す。  白い輝きのそれは、虚月が引き千切ったはずのネックレスだった。 「…あ、それは…え、と…」  戸惑う可憐に、そっとネックレスを掛ける。 「嘘をついて申し訳ありません。…これは、あなたのものだ」  可憐の顎下に揺れる十字架を、香島は目を細めて見た。  目を伏せ、香島はそっと可憐の額に口付けた。 「!」 「もう、あなたを失ったりしない」  可憐は、香島を見た。  香島は、紅の絨毯の上に膝を着き、頭を下げた。 「ご命令を。我が、主よ…」  可憐の脳裏に、光が走り抜けた。  見覚えのある風景。  己に頭を下げ、忠誠を誓う者たち。  ステンドグラスも、揺れる蝋燭の灯りも。  懐かしい、あの時のまま。  可憐は、思い出していた。  哀しい裏切り者の名を。  虚月と名乗った、銀の髪の吸血鬼。 「…リフェンス…」
いいね
ドキドキ
胸キュン
エロい
切ない
かわいい

ともだちとシェアしよう!