13 / 26

第1夜 キスしたことある?(13)

 裏通りは、閑静な住宅街だった。  あまり通った事のない道を、可憐は緊張して歩いた。 「教会…教会…」  深緑の垣根が続き、やがて、墓地が見えた。  日本ではあまり見かける事のない、十字架の墓石が幾つも並んでいる。 「わ…」  可憐は、胸をときめかせていた。  こういうの、なんか、ロマンチック…。  街の一角だけ、仕切られた空間に、異国が現れたようだった。  違う。  異国に、足を踏み入れた様だった。  墓地と言うにはあまりにも、美しい。  公園の様な、爽やかな空気が漂っていた。  墓地を囲む柵があり、それを辿り可憐は進んだ。 「あっ…た…」  尖塔が、三つ並んでいる。  真ん中の塔に、十字架。   こんなに広い墓地も、教会の存在も知らなかった。 「ここ、だよね…」  辺りを見渡す。誰もいない事を確かめ、可憐はその場を後にすることにした。 「光島さん、可憐さん?」 「えっ」  可憐は飛び上がりそうになった。  背後から、呼び止められた。  振り返ると、昨日の香島が穏やかな笑みを浮かべて立っていた。  手には箒を持っている。 「あ…香島、さん…」 「どうしたんですか?…あ、学校?」 「そうです。ちょっと、散歩しながらきたら、ここに着いて…」  じゃ、失礼します。そう言って、足早に去ろうとした時だった。 「待って、可憐さん」 「え…」  香島は、可憐の手を捕まえていた。 「あ…あの…」  絶対絶命だ。  これは、退治される。  香島は、懐に手を入れた。  十字架が出るに違いない。  可憐は鼓動が早まるのを感じた。  ぐっと、可憐は目を閉じた。    ふわり、と可憐の首に何かが掛けられた。 「え…」 「これは、お守りです」  見れば、小さな十字架が付いた銀のネックレスだった。 「夜道は危険なので。もう、一人で歩かないで下さい」 「あ、あの…でも、こんなに綺麗な、私…」  慌てる可憐に、香島はにっこりと笑った。 「大丈夫。それは僕の妹のものなんで、お古ですが。あなたにあげます」  そう言って笑う香島を、可憐はまじまじと見つめた。  色白で、少し、色素が薄い。長い睫毛と、大きな双眸。  異国の血が入っているのかもしれない、と可憐は見て思った。  虚月とは違う美しさがある。 「可憐さん?」  ふと、名を呼ばれ可憐は我に返った。 「あっ、すみません。でも、あの…」  虚月に知れたら、何と言われるか。 「似合ってますよ。大丈夫」 「…ぁ、はい…」  耳まで赤くなっていたに違いない。  可憐は香島と別れ教会を後にした。  あんなに格好良い人に、似合ってますよ、なんて、言われたことがない。  思わず安心して付けたまま来てしまった。 「学校で外せばいいよね」  結局、学校に着いたのはお昼前だった。
いいね
ドキドキ
胸キュン
エロい
切ない
かわいい

ともだちとシェアしよう!