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第9話

「……ま、それはいいんだよ。問題はそこからだ」  少女は小さく溜息を吐いて、 「ボクは、あなたたちを殺しに来たわけでもないし倒しに来たわけでも無い。それだけは言っておきましょうか」 「……は?」  ボク、と自らを名乗った少女は小さく傅いて、 「……知らないの? あの構文を手に入れたい人間はたくさん居る。それは私もだけれど」 「だとしたらますます乗せるわけにはいかないわね。ここからさっさと立ち去りなさい」  エノニュケス構文を狙っている、ということはご主人様の敵ということになる。  そんな人間をご主人様と同席させるわけがない。メイドとしての観点以前の問題だ。 「……まあまあ、話は最後まで聞きなよ。そもそもあんたたち、どうせ知っている情報は少ししか無いんだろう? 例えば……エノニュケス構文を見つけた冒険者の旅路、とか」 「あなた……なぜそのことを?」  あまりにも情報が漏洩しすぎている。  まさか……どこからか情報が漏れ出ているのか?  そんな不安をよそに、少女は笑みを浮かべる。 「盗賊のネットワークを舐めちゃいけないよ。あ、一応言っておくと、あんたたちのどこかに裏切り者がいるというわけではないから、念のため」 「そんなこと、信じられると思っているのかしら?」  盗賊の話なんて信用出来ない。  それが私の価値観であり、きっとそれは一般の価値観と同義と言ってもいいだろう。  それほどに盗賊とは鼻つまみ者であり、他の人間から疎まれている存在であり、あまり良しと見られない立ち位置にある存在と言えるだろう。 「ま。そうなるのも当然か。いずれにせよ、私は有益な情報をもっている。それを信じるか信じないかはあんたたち次第だけれど、場合によっちゃいいことになるかもしれないぜ?」 「いいこと?」 「グランズニール商会って聞いたことある? 特に、そこの良いところのお兄さんなら分かるんじゃない?」 「メイドの知識を舐めないでいただけるかしら。私だって、グランズニール商会くらい知っているわよ。世界最高の商会でしょう。海を統べ、軍隊をもグランズニール商会を守護すると言われている、『世界政府』の代行人」 「そう。そのグランズニール商会が、あんたらの狙っているエノニュケス構文を狙っているわけ。まあ、あんたたちは狙っているというよりかは謎を解き明かしたいだけ……なのかな? いずれにせよ、似たようなもんでしょ」 「似たようなもの、って……。そもそもどうしてあなたがそのような情報を知っているのよ。そこが謎じゃない」  私が詰問しようとすると、ご主人様が手で制した。 「まあまあ、悪気は無さそうだし、質問タイムはその辺りで」 「ですが、ご主人様……」 「話の分かる『ご主人様』で良かったよ。メイドの躾はきちんとしておいてくれよ?」  それを聞いたご主人様は、ははと軽く笑った。
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