10 / 10

第9話

「……ま、それはいいんだよ。問題はそこからだ」  少女は小さく溜息を吐いて、 「ボクは、あなたたちを殺しに来たわけでもないし倒しに来たわけでも無い。それだけは言っておきましょうか」 「……は?」  ボク、と自らを名乗った少女は小さく傅いて、 「……知らないの? あの構文を手に入れたい人間はたくさん居る。それは私もだけれど」 「だとしたらますます乗せるわけにはいかないわね。ここからさっさと立ち去りなさい」  エノニュケス構文を狙っている、ということはご主人様の敵ということになる。  そんな人間をご主人様と同席させるわけがない。メイドとしての観点以前の問題だ。 「……まあまあ、話は最後まで聞きなよ。そもそもあんたたち、どうせ知っている情報は少ししか無いんだろう? 例えば……エノニュケス構文を見つけた冒険者の旅路、とか」 「あなた……なぜそのことを?」  あまりにも情報が漏洩しすぎている。  まさか……どこからか情報が漏れ出ているのか?  そんな不安をよそに、少女は笑みを浮かべる。 「盗賊のネットワークを舐めちゃいけないよ。あ、一応言っておくと、あんたたちのどこかに裏切り者がいるというわけではないから、念のため」 「そんなこと、信じられると思っているのかしら?」  盗賊の話なんて信用出来ない。  それが私の価値観であり、きっとそれは一般の価値観と同義と言ってもいいだろう。  それほどに盗賊とは鼻つまみ者であり、他の人間から疎まれている存在であり、あまり良しと見られない立ち位置にある存在と言えるだろう。 「ま。そうなるのも当然か。いずれにせよ、私は有益な情報をもっている。それを信じるか信じないかはあんたたち次第だけれど、場合によっちゃいいことになるかもしれないぜ?」 「いいこと?」 「グランズニール商会って聞いたことある? 特に、そこの良いところのお兄さんなら分かるんじゃない?」 「メイドの知識を舐めないでいただけるかしら。私だって、グランズニール商会くらい知っているわよ。世界最高の商会でしょう。海を統べ、軍隊をもグランズニール商会を守護すると言われている、『世界政府』の代行人」 「そう。そのグランズニール商会が、あんたらの狙っているエノニュケス構文を狙っているわけ。まあ、あんたたちは狙っているというよりかは謎を解き明かしたいだけ……なのかな? いずれにせよ、似たようなもんでしょ」 「似たようなもの、って……。そもそもどうしてあなたがそのような情報を知っているのよ。そこが謎じゃない」  私が詰問しようとすると、ご主人様が手で制した。 「まあまあ、悪気は無さそうだし、質問タイムはその辺りで」 「ですが、ご主人様……」 「話の分かる『ご主人様』で良かったよ。メイドの躾はきちんとしておいてくれよ?」  それを聞いたご主人様は、ははと軽く笑った。
スキ!
スキ!
スキ!
スキ!
作者

この小説を読んだ人におすすめの作品

王子同士の争いに巻き込まれた一人の女性と彼女を支える従者のすったもんだ話
    • 連載中/7話/16,630文字/0
    • 9月11日
    2年間待ち続けた婚約者が――幽閉!?
    • 4
    • 5
    • 4
    • 4
    • 1
    • 連載中/28話/53,846文字/50
    • 9月27日
    完結
    酒好きという共通点が、ただの上司と部下の一線を越え……
    • 28
    • 12
    • 7
    • 5
    • 17
    • 完結済/50話/51,670文字/87
    • 11月14日
    何年も前に逃げ出したはずの恋。だけど、柚奈の恋はいまだ檻の中だった。
    • 8
    • 2
    • 9
    • 2
    • 2
    • 連載中/17話/70,070文字/113
    • 12月15日
    完結
    それは勘違いからはじまった恋だった
      • 完結済/13話/34,156文字/0
      • 10月18日
      王となる人の妻として育てられた。けれど心は王弟に向いていて
      • 1
      • 連載中/31話/32,009文字/8
      • 8時間前