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第7話

「おい!」  ご主人様の震えるような、けれど奮い立たせるように放った大声が聞こえたのは、それから少ししてのことでした。 「どうしましたか?」  メイドたるもの、不安がらせてはいけません。  そんなことを思いながら、私はゆっくりと問いました。 「……闇の中に、誰か居る。恐らくは賊の類にも見えるが」 「賊?」  私は辺りを見渡した。  けれども、辺りは漆黒に覆われていて何も見えやしない。油を使いたいところではあるけれど、やはり貴重な物品であることには間違いないので、出来ることなら使いたくない。  ならばどうすれば良いか。  答えはもう見えきっていた。 「……ご主人様」  ぽつりと、私は呟く。 「え?」  その声はご主人様には遠かったかは分からないけれど、聞き返すようなそんな素振りを見せた。 「突っ走りますよ! 遠くまでっ!」  刹那。  私は思い切り手綱を握り、馬にスピードを上げるように指示した。  こういう時、夜目が効く馬というのは便利なものだと思う。こんな馬は世界でも特殊で、あまり育てている人がいない。けれども蒐集家である先代のご主人様が、それでは勿体無いと言い放って、一つの番を育てるようになったのだという。私がお屋敷に来た時は既にその馬は大きくなっていたから、知る由もなかったのだけれど。 「これならなんとか逃げ切れる……!」  と、思っていた。  今思えば完全に油断していた、と言ってもいいのだけれど、それについては本当にダメな形として具現化してしまったと言ってもいい。結局のところ、私はそれに失敗してしまったわけで、本来ならば失敗せずに済んだのだから。 「おい、メアリー! 何だか天井から音がしないか!」 「なんですって⁈」  そんなはずはなかった。  そんなことはないはずだった。  でもこういう時、存外嫌な予想は的中するもの。  刹那、布製の天井は切り裂かれ、そこから何者かが落ちてくるように侵入してきた。
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