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第5話

「どうなさるおつもりですか?」  ゴール卿のお屋敷から、私たちはご主人様の屋敷へと戻ってきました。  ご主人様はゴール卿から拝借した手紙と、その手紙に入っていた地図を見比べながらうんうん頷いています。うん、まあ、想像出来ていたことではあるけれど、宛もない旅になるということはご主人様も理解しているはずだけれど、どうしてこう簡単に了承してしまうのか。 「……うーん、とりあえず今のところ手がかりになるのはこの地図だけかな。それにしてもゴール卿のお父上はかなり律儀な方だよね。こんな詳細な旅路を残していたなんて」  私も少しだけ見せて貰ったが、ゴール卿のお父上が残された地図はかなり鮮明にそのルートを記していた。  地図はこの国だけではなく世界が記されている地図となっていた。  この国と南にあるフラディエート帝国がある『大陸』、南の海に浮かぶリシャード群島をメインに構えるのはリシャード王国、この世界には数多くの国家がかつて群雄割拠としていたわけだけれど、今はこの三つの国しか存在していない。そして、かつてあった戦争により人々の命を多く失った反省を生かし、それぞれの国家は不可侵条約を結んでいる。  それは、自らを守るための枷であり、世界を平和へと導くための唯一の手段である。  ……まあ、これはすべてメイドの教育中に得た知識の受け売りなのだけれど。 「それにしても、ゴール卿のお父上が活動していた頃と言えば……、まだ国家が多く存在していた頃だし、紛争も多く起きていたはず。よく国境を無視して突き進むことが出来たよな」  地図をテーブルに置いて、ご主人様は背もたれに体重を預ける。 「あら? ご主人様、普段なら目を輝かせたままろくに用意もせずに向かうはずなのに」 「僕をなんだと思っているんだよ」 「推理することが大好きなただの馬鹿ですが?」 「辛辣だなあ……」  ご主人様は椅子から立ち上がると、手紙を折り畳む。 「ま。でも行くことは決まっているよ。面白いことなのは確かだしね。だったら、向かわないとなんとも言えない。やっぱり面白いことは誰にも先を越されないうちにやっておかないとね。君もそう思うだろ?」 「さあ、どうでしょう。探偵は、どちらかと言えば男性のやることかと思いますので」 「つれないねえ」 「昔からです」  いつものやりとりを交わして、私は深い溜息を吐く。 「何日分、ご用意しておきましょうか」 「……うん?」 「衣服ですよ。まさか毎日その格好で過ごすつもりではありませんよね? いくらホテルに洗濯屋があるとはいえ、ある程度の量は持って行ったほうがいいでしょう。お金も無限にあるわけではありませんから。……それで? 何日ほど、行く予定ですか」 「それは君もついて行くということだよね?」  ついていくのが当たり前だよね、というような誘導尋問に近い質問をされて、私はゆっくりと頷く。 「あなたを二日以上放っておいたら何をしでかすか分かりませんから」 「それって馬鹿にしているということ?」 「分からなかったんですか?」  ああ、もう、相変わらず脳天気だ。ぶれないと言ってもいいかもしれないけれど、ここまで気付くのに遅いとなると、さすがに病気を疑いかねない。  いくら幼馴染であるとはいえ、その身分は雇い主と雇われメイドの関係だ。皮肉は言えるかもしれないけれど、それをメインに強く言えることはない。  だから私は、大体のことはいつも自分の中に押さえ込むに過ぎない。  そうして私は、準備をしてきます、とだけ言い残して部屋を後にした。
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