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第4話
それを聞いたご主人様の目つきが鋭くなった。
そして、一拍置いて――ご主人様はゆっくりと口を開ける。
「……本当ですか、それは?」
「ああ。ほんとうだ。紛れもない事実だ。……ただまあ、正確には『あるかもしれない』という証拠が出てきただけに過ぎないが」
「と、言いますと?」
ご主人様は少し身を乗り出して、質問を続ける。
こうなると誰にも止めることは出来ない。強いて言えば、無理矢理止めるしか術は無い。
「……私の屋敷にこんな古い書類が残されていてね」
懐から手紙を取り出したゴール卿は、それを直ぐ傍に居たメイドに差し出す。
そうしてメイドはゆっくりと私たちのほうに向かい、ご主人様へ手渡した。
「ありがとう」
手紙を受け取ったご主人様は、ゴール卿に視線を移し、
「開けても?」
「ああ。問題ない」
了解を得て、手紙を開いていった。
「……構文を見つけた、ということですか。この手紙を書いた方は」
ゴール卿に三度視線を移すと、ゴール卿はゆっくりと頷いた。
「その通り。この手紙を書いた人間は冒険家だったらしくてな、かつて冒険をしている間にその構文を見つけることが出来たらしい。もっとも、構文とは概念だから、おそらくはそれを書いた文献を見つけたのだろう」
「ただ、その文献は見つかっていない……ということですよね」
「ああ。これを書いた者は、悟ったのだろう。この文献が世に出ることで、様々な人間が悪用することになるのだろう、と。だからこの手紙を未来に託し、構文そのものはどこかへ隠した。……だが、私はどうも気になるのだ、この構文のありかが。この手紙を書いた人間の子孫としては、な」
「それってつまり……」
ゴール卿は頷くと、ゆっくりと立ち上がる。
そして私たちを見下ろすように見つめながら、呟いた。
「実は、その手紙を書いた冒険家は私の父だ。父が亡くなってかなり経過したこともあり遺品を整理していたのだが……、まさかこんなものが見つかろうとは。そして、私よりもこのようなものに強い興味を抱いた者に探して欲しい。私はそう思って……、君を呼び寄せたのだよ。『すべての謎を解き明かすことの出来るマスターキー』を探す旅……、興味がわいてこないか、スワロー・ミシディア君?」
ご主人様も慌てて立ち上がると、何度か私のほうに視線を移す。
それはまるでご機嫌を伺うような、そんな視線だった。
普通はメイドに向けるべき視線ではないのだけれど――ご主人様にとって唯一心を許せる存在となっている私にお伺いを立てる必要がある、というのはご主人様なりの考えなのかもしれない。
ただまあ、その子供のように無垢で、輝いたような笑顔を見ると――そんな『楽しそうなこと』を断ることなど、私には出来るわけもなく、私は無言で頷くことしか出来ないのだった。
それを見たご主人様は、ゴール卿に視線を移して大きく頷いた。
「やります。やらせてください。『エノニュケス構文』を探す旅……、是非とも引き受けさせて下さい!!」
その言葉は食堂に響くほど、はっきりと大きい声で告げられた。
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