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第3話

 食堂の扉を開けると、ゴール卿が待ち構えていた。ゴール卿は、老齢の男性だ。先代のご主人様の頃から付き合いがあるのだから、そうなるのは当然ではあるのだけれど、それにしてもとても元気で、とても寛容な方だと思う。メイドのチョイスはどうかと思うけれど。 「お久しぶりです、ゴール卿」  頭を下げるご主人様。それを見て私も頭を下げた。 「まあ、楽にしなさい。私も、私で、久しぶりだからな。まあ、貴殿を呼ぶのは、こういうタイミングでしかないのが非常に申し訳ないのだが……」 「いえ、大丈夫ですよ。私も趣味の一環ですので」 「ご主人様。仕事と趣味は分けていただけますと、大変助かります」 「はっはっは。相変わらず君はメイドの尻に敷かれているな。君らしいと言えば君らしいが」  ゴール卿は笑いながら、右手を差し出す。私たちに椅子に掛けろ、と言っているのだろう。  そう思って私は頭を下げ、椅子を引く。 「失礼します」  そこで漸く、ご主人様は頭を下げて腰掛ける。  私は座らないで、そのままご主人様から一歩後ろに立っていたのだが、 「メアリー。君も座りなさい。ここでは君も立派な『客人』だ」 「……かしこまりました。では、失礼して」  そう言われてしまっては仕方がない。私も隣の椅子に腰掛けることにする。  そうして、漸く話が出来る体勢になったと思ったのか、深い溜息を吐いて、 「……先ず君は、『エノニュケス構文』をご存知かね?」  エノニュケス構文。……何だろう、聞いたことは無いけれど、もしかしたらご主人様は知っているのかな? 「ええ。エノニュケス・マインダー侯爵が考えた『謎解きのプログラム』ですよね。しかしながらあまりに高度過ぎたその謎は誰も解けることなく歴史の闇に消えた、と聞いたことがありますが……」  目をキラキラと輝かせて言っているところを見ると、かなり興味を持っていた分野なのだろう。  まあ、謎のあるものなら何でも好きだというくらいだから――そういうよくわからないものも守備範囲なのかもしれない。 「そう。そのエノニュケス構文は、謎解きのプログラムであると同時にこう呼ばれていることも……君なら知っているのではないかな?」  こくり、とご主人様は頷いた。 「ええ。……『謎解きのマスターキー』ですね。その構文を使えば、どんな謎だって解くことが出来ると言われていた。だから、噂を信じた誰かはそんなことを言いだした。でも、正直言ってそれは嘘のようにも思えますが……」 「その構文が、実在するとしたら?」

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