2 / 10

第1話

 ゴール卿のお屋敷は、馬車に乗って約二十分ほど。首都の南側に位置しています。  ですので、わざわざ歩いて向かうわけも無く……今私たちは馬車に乗っています。 「……それにしても、ゴール卿も急なお願いですよね。私たちを呼ぶことになるとは」 「覚えていないのか、メアリー。ゴール卿が我々を呼びつける時はいつも決まっている。……どんな探偵や警察に依頼しても解決しないときだ」 「それはそうですけれど……」 「それに。一応言っておくけれど、別に敬語を使わなくてもいいんだぞ、メアリー。だって一応幼馴染じゃないか。そもそもどうしてメイドとして雇わないといけないんだか……」 「それは、あんたのお父様が私たち家族を養ってくれていたからですよ、忘れたんですか? バカなんですか?」  おっと、つい素が出てしまった。失敬、失敬。  確かに、ご主人様の言うとおり、私とご主人様は幼馴染。年齢は私のほうが一つ上なのだけれど、役職的な意味ではご主人様がずっと上。ま、ご主人様と呼んでいるから当然そうなのだけれど、実際の所、ご主人様はそういう関係は望んでいないらしい。  私に取ってみれば、ご主人様のお父様――つまりは先代のご主人様に救って貰わなかったら今の私は居ないから、ご奉仕することは当然のことだと躾けられているわけなのだけれど、それについては、まあ、妥協していきながらやっていくしか無い。  しかしまあ、『メイドなんてやらなくていい』と言ってくれるのは大変有難いのだけれど、このスワロー・ミシディアという男は家事がまったく出来ない。まあ、生まれてずっとこの屋敷で過ごしていればそうなっても仕方ないけれど、だとしてももう少し知識があってもいいものではないか!? なんてそんなことを思うのだけれど、当の本人はあまり気にしていないらしい。いや、もっと気にしろよ、なんて思うのだけれどそれは耳にタコができるほど言ったから、それでも改善されないと言うことは、改善する気が無いということなのだろう。もう、諦めるしか無い。  とどのつまり、こいつは私がメイドをしないと、野垂れ死んでしまうというわけだ。野垂れ死なないにしても、面倒なことに巻き込まれたり、或いは誘拐されてそのまま殺されかねない。騙されることもあるかもしれない。現に、ゴール卿の手紙に『本物かどうか確かめもせず』応答しているわけだし。……うん、そこは問題ない。一応私が本人の秘書から手紙をいただいたし、そこについては、きちんと保証出来る。私が保証する。  簡単に言ってしまえば、こいつは推理バカ――もちろんそんな言葉は無いけれど、そう表現するしか無い。  謎を見つけると、一目散にそれに向かってしまう。そうしてそれ以外のことが見えなくなってしまう。それはメリットの一つでもあるけれど、大きなデメリットの一つにも捉えることが出来ると思う。  だから、そのハンドルを切る人間がいないといけない。雇い主を車に例えるのはどうかと思うが、それくらい真っ直ぐなのだ。  ……ただまあ、謎を見つけたときの輝いた目を見ると、何も言えなくなってしまうところを見ると、私も甘いんだろうなあ、ということは理解せざるを得ないのだけれど。 「メアリー、見えてきたぞ!」  ご主人様の言葉を聞いて、私は窓から外を眺める。  そこにあったのは、ゴール卿のお屋敷だった。  どうやらモノローグに浸っている間に、屋敷の近くまでやってきていたらしい。 「ああ、楽しみだ。いったいどんな謎が待ち受けているというのか! ゴール卿も良い人だ。あの人は古くからの友人だが、ほんとうに良質な謎を提供してくれる。あの人がすべて考えているんじゃないか、ってくらいに!」  それはどうでしょうね、と私は一言答えておいた。  そうして私たちを乗せた馬車は――ゴール卿のお屋敷へと向かうのだった。
いいね
ドキドキ
胸キュン
エロい
切ない
かわいい

ともだちとシェアしよう!