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プロローグ

 その丘から、首都メリル・リープが一望出来る。  私は朝の掃除を終えるといつもここに来て、首都の光景を眺めるのが日課になっている。 「いい天気。今日も、良いことが起こりそう」  起こってほしいものだけれど、案外そう毎日起こらなかったり。  それはやっぱり――カミサマの気紛れ、ってものなのかな。  私はそんなことを考えながら、箒を片手にお屋敷へと戻るのでした。  ◇◇◇  私の働くお屋敷は、メリル・リープから少し離れた高台にあります。  首都から少し離れていることも有り、買い物は常に、首都へ向かわなければなりません。たまに行商の人が通ることもあるけれど、それは偶然だったり、定期的だったとしても週に一度が限度なのであまり役に立たない――というのが現状だったりします。 「……今日は、ご主人様が帰ってくる予定でしたね。いつも以上に綺麗にしておかないと」  ご主人様は、仕事の関係上外に出ることが多く、その間は私一人でお屋敷の番を任されています。このお屋敷はとても広く、一人で掃除をすると数時間もかかりっきりになってしまうのですが、私はそれを大変だと思ったことはありません。メイドを増やす予定も無いらしいですからね。  でもまあ、もう掃除は日の出から始めていたので、もうとっくに終わっています。なので、あとはご主人様が帰ってくるのを待つばかり。  美味しいご飯を用意しているのですけれど、予定時刻を一時間回ってもドアが開かれない。……うーん、どうかしたのでしょうか? 馬車で帰ってきているはずですから、もしかしたら馬車がうまく動いていないのかも。  そんなモノローグに浸っていたら、扉が開く音が聞こえてきました。たぶん、それは玄関が開く音でしょう。私は急いで階段裏にある部屋から出て行きます。ご主人様を出迎えるのがメイドのお仕事ですから。 「お帰りなさいませ、ご主人様」 「ありがとう。ただいま戻ったよ」  ご主人様は私より背が高く、私を見下ろすように見つめていました。その目はとても優しく、慈愛に満ちあふれるような視線――普通ならば奥方がいてもおかしくないような、そんな感じ。顔立ちも整っていて、ブロンドの短髪もよく似合っています。  ご主人様が持っていた鞄を受け取り、ご主人様の後をついていくように私は歩き始めます。  ご主人様が深い溜息を吐いている様子でしたので、なるべくそのストレスを溜め込まないように、私は会話を始めます。 「……仕事の様子はいかがでしたか?」 「散々だったよ。あのやろう、こちらが若いからって金を少なく見積もってこいと言ってくるんだ。私としてはこれ以上無い破格の値段を提示してきたにもかかわらず、だ。昔のよしみ、と言っていたがそもそも私はあいつとは仲良くした覚えもないし、共通の友人がいたから紹介してもらっただけに過ぎないはずだ。だのに……」  このままだと話は終わりそうに無い。  そう思って私は話題を変えることにしました。 「……大変でしたね。ところで、手紙が届いていました。書斎に置いておきましたので、あとでご確認下さい」 「手紙? いったい誰からだい」  振り返り、ご主人様は言いました。  ご主人様の問いに私は、ゆっくりと答えます。 「ええと、確かゴール卿からだったかと……」 「ゴール卿!」  ご主人様はそう言って大急ぎで駆けていきました。 「ご主人様ったら……いつもああなのですから」  溜息を吐きますが、私は別に嫌いではありません。  だって、もし嫌いだったら、私はとっくにこのお屋敷を辞めているはずでしょう?  廊下を歩いている内に、ご主人様が私に向かって走ってきました。 「おい、メアリー! 急いで向かうぞ、ゴール卿のお屋敷へ」  眼をキラキラと輝かせて、ご主人様は私に言いました。 「私もついていってよろしいのですか?」 「ゴール卿が良いとおっしゃっている! 今回はビッグなネタだ。なんと、ゴール卿のお屋敷に眠る遺産を見つけて欲しいとのことだ。急いで準備をしたまえ、私は馬車に乗り込んで待っている!」  そうして足早に鞄を私から奪い取ると、玄関めがけて走り去っていきました。  ここは、スワロー・ミシディアのお屋敷。  メリル・リープでは知る人ぞ知る探偵が住むお屋敷です。  そのお屋敷に仕えているメイド――それが私、メアリー。ちょっぴり情けないご主人様の助手として働いています。  そうして、ご主人様と私の物語が今から始まります。  
作者