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第二部  海賊王子と狩人妃(5)

「あ……」 (おいおい) 弓香と口づけを交わしながら、俺は思う。 (初めから、そんなに喘いでいいのか) 確かにプロポーズした日以降、そしてこの日が夫婦となる誓いの後の初夜ではあった。  いくら俺が王太子とはいえ、婚儀は女のもの。 ただでさえ、ロイヤル・ウエディング”となれば、新たに王家の人間となる弓香に注目が集まる。それでなくとも政略結婚という眼で視られていたから、俺は、彼女の表情を幸せなものにすることに力を注いでいた。  遠方へ出張する公務は婚儀の準備期間の間、なるべく減らした。そして祁答院コンツェルンの次期総帥である弓香も多忙を極めていたが、彼女にスケジュールを調整して貰い、どうしても避けられない公務に弓香を連れて行ったりもした。  彼女が王族教育を施され、躰を磨きたてられる過酷な日程の合間。 花束を贈り、賞賛の眼差しと抱擁と愛の言葉を贈り。口づけを交わし、時には移動するなか慌ただしく彼女を昇天させることはあっても、俺は体調を慮り、彼女を抱いてはいなかった。  男を知らぬ処女であれば、それだけでも大丈夫だったかもしれない。 しかし、彼女の心と躰に、最初のまぐわいは強烈すぎたのだろう。彼女をじりじりと地獄の熾火であぶっていたことに、今更に気が付いた。  いくら躰が餓え切っていたとしても、奥洞海の出身の弓香が俺に魂と愛を差し出した以上、慰めの男になんぞ手を出す訳がない。 --結果的に、彼女に焦らしプレイをしていたようだ。  惚れた女の処女を突き破ったのは、彼女の執務室のソファの上だった。 「”次はゴージャスなスイートでお前を抱く”、て決めてたのにな」 「え?」  俺の呟きに、夢から覚めたような顔で俺を見上げてきた。そして、すぐに意味を悟ったのだろう。にこ、と微笑みかけてきた。 「何処でも、私には同じです」 「え?」 「殿下が居れば、そこが私の宮殿なんです」 ほら、というように彼女が天を見上げた。 「星々に見つめられて、殿下と二世の契りを交わせる……とても素敵な初夜です」  はにかんだ表情で、そんなことを言われてしまえば。 ぐい、と彼女を横抱きにした。 「きゃっ」  ターフの下から、せめてと敷布を拾い上げて、砂の上に敷いた。 とさり、と弓香をその上に下ろして、覆いかぶさった。 「星々と海に誓おう」 星は我が指針。 躰は国に捧げているが、俺の魂は海に在る。 その、大事な二つのものに、俺は誓う。 「……」 「祁答院 弓香。お前に俺の心を与える。お前だけが生涯、俺の妃だ」 弓香の双眸からみるみる涙があふれた。 「はい」  今更に、お前が俺の伴侶であることを誇らしく、そして愛おしく想う。 (だが、俺は) お前に愛と信頼を寄せられても、返してやれないかもしれない。お前を裏切ることもあるだろう。 もしかすると、お前の祁答院(さと)はおろか、大事な奥洞海(よすが)まで滅ぼすこともあるかもしれない。それでも。 (お前が、俺を愛したことを後悔させないことを誓おう)  孤島のアダムとイブ。 いささか恥ずかしいことを考えてしまったのは、さざめく波と満天の星に影響されてしまったのかもしれない。 「あ……は、」 キスの合間に、弓香から喘ぎ声が漏れる。ぷちぷちと一つずつ釦を外していけば、俺の両方の手首を掴んで、いやいやと首を振った。 (待ちきれないのか) そう思うと、凶暴なまでの欲が湧いた。 「弓香。海賊の流儀だ、赦せ」  言うなり、彼女の服に手をかけ、引き裂いた。  ブラジャーのフロントホックを外す。 そして、ショーツの腰骨の紐をくい、と口で引っ張って解いた。  褥の上に横たわった弓香の白い裸身を星灯りの下、眺める。 眼が慣れてくれば、海面に輝く月のように、真珠のように内面から発光するかのような裸身を見ることができる筈だった。  手早く、自分の服も引きちぎる勢いで脱ぎ捨てる。 「弓香」 「来て……」 手を広げて雄を受け入れようとする彼女に、俺は覆いかぶさった。 「弓香」  卵型の輪郭をなぞり、まろやかな頬を両手で包んだ。彼女の双眸をじっと見据える。彼女も俺の瞳を見つめてきた。 「でんか」 (欲しい、この女が)  幼い頃から自分は国を治めるのだと知っていた。その傍らには、国母となるべき女が立つことも。 弓香に出逢うまでは、一番国に益する女を自分は選ぶのだと思っていた。 (だが) 心の底ではずっと、一人の男として一人の女を探し求めていた。  あの秋祭りの日。 暴漢に向かって舞うように、鉄扇を振りかざして戦う弓香を見て、”この女だ”と思った。そして思った途端、この女を手中に納めずにはいられなかった。  悪友が揶揄って言っていた、『内堀を埋める』どころの話じゃない。彼女が拒絶したとあれば、祁答院も奥洞海をも楯に取り、俺の妻になることを強要することも辞さなかった。 「ずっとお前が欲しかった」 (この世に生を享けてから) 「私も」 否。 この世に生まれ出る前から、ずっと。 「愛してる」 唇を彼女に重ねた。 羽が舞い降りるようなキス。 何度も何度も、彼女の唇の柔らかさを確認せずにはいられなかった。清浄なるものを地上に降ろす儀式。しかし、彼女は進んで俺の為に、地上に降りてきた。 「でんか。私も……私もです」 また、唇を重ねた。  ここには誰もいない。 星々の光と波音にくるまれて、俺達は一つになる。 「弓香……」 彼女の耳たぶを食んだ。 「ん……」 くすぐったそうに身を捩る。 (そんな仕草) すればするだけ、俺を煽るのだと教えてはやらない。 俺を好きなだけ煽るがいい。その礼として、俺は骨も残さずお前を貪ろう。  くちゅくちゅと耳穴に舌を出し入れさせた。 「あ、や」 「くすぐったい?」 くすり、と笑うと俺の声や息にもぴくんぴくん、と反応する弓香が可愛らしい。 「は……い、ヤ!」 大胆に舌を出し入れしてやった。 「じきに気持ち良くなるさ」 お前を官能の虜にしてやろう。 ただし、俺限定の。 俺でなければ濡れない程に、躰が拓かれないほどに。  強姦は何も肉体的苦痛だけではない。 拓かれて躰が濡れるほど、心は切り裂かれる。  濡れない躰を無理矢理拓かれることは、女にとっては苦痛でも。凌辱しようとしている男に、”お前程度の性技では濡れないのだ”と一矢報いることになる。  無論、この女が奪われる時は、我が身がこの女を護り切れなかった時。俺はきっと命を落としているのだろう。 しかし、王族とは最後まで生き残って、国を民を護る義務がある。 (お前を先に死なせても、お前を遺したまま。敵の咢にお前を落したまま、俺は死んだりはしない) 「お前を俺の色に染め上げる」 「そめ……て……」 弓香は耳をねぶっただけで、すでに朦朧としているようだった。  お前の全てを今、拓くことはできない。 俺も彼女の痴態を見ていて、限界が近づいているからだ。 少しずつ。 (お前の躰を拓いていこうな)  刺激を欲しがっているであろう、乳房に可愛がる関心を移した。 ぴん、と勃ちあがった乳首を口に含むと、待ちかねたような嬌声が漏れる。 もう一つの乳首も、指で攻めてやる。 「あ。あん……」 聖女が堕ちて、女になっていく様を見るのは、男にとって愉悦。 (もっと堕ちてこい) 俺なしでは生きられぬように。 (一方では、……よせ) 俺は眼の前の果物に集中することにした。  果物は熟れきって、俺に堕ちたがっている。甘い蜜を呑んで貰おうと、その果肉を食べて貰うことを待ち望んでいる。
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