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決意(2)
吹き付ける風が肌に突き刺さるようだ。
それは、針で何度も突き刺したようなチクチクした感覚だった。
特に頬のあたりが痛い。息を吐くと、白い煙が天に昇って行く。
「暇そうだな」
顔を空に向けた瞬間、背後のほうから声が聞こえた。
俺はゆっくりと振り返る。
「女の子にあんな仕打ち、酷いじゃないか」
真面目臭い声がこんなにも苛立ちを覚えるなんて、吐き気がするくらいだ。
「あんた……いつから見てたんだ?」
「いまさっき」と語るが、一部始終見ていたんだろ? と啖呵を切りそうだ。
目の前に現れた千尋に鋭い視線を浴びせる。
心のどこかで沸々と湧き上がるどす黒いヘドロのようなものが、俺を蝕んでいく。
嫉妬だとか、憎悪だとか、そんなものの集大成のような汚い塊は、千尋に対し大きく膨れていく。
あいつが羨ましくて……声を大にして波を好きだと言えるあいつが心底羨ましくて。物凄く、憎い。
「波ちゃんは、家にいる?」
「……知らね」
唇を尖らせた俺に、千尋はため息を吐き出しながら口を開く。
「今から行って、クリスマスプレゼント渡してくる」
「はっ。プレゼント? 予選で負けて全国大会に出場できずにサッカー部引退して、暇なんだね、あんた」
「だから、今日は波ちゃんと一緒に過ごそうかと考えている」
俺の嫌味に対しても、千尋はうまく話を交わす。それがまた、俺の不安を掻き立てるんだ。
「……行かせないって……言ったら?」
「二人の関係をご両親にばらす……っていうのはどうかな?」
「……っ……」
拳を握りしめた。
言葉が出てこない。
頭が一瞬の内に真っ白になってしまったようだ。
やはり、千尋のほうが一枚上手だ。こいつには、敵わないって……会話するだけで手に取るように分かってしまう。
「俺ね、思ったんだ。陽介くんと波ちゃんの関係は、普通じゃないって。陽介くんが俺を見ている目……ライバル心剥き出しの視線っていうの? ひしひしと伝わってきたよ。あとは……波ちゃんのここにキスマーク……ついてたってことかな」
言いながら、千尋は己の首筋に指を這わす。
不敵な笑みを見せた千尋の視線は俺を捉えたまま離さない。
固まったままの俺の横を素通りしていく千尋。
千尋は俺が望む物を全て持っている。
彼氏になる権利、好きだという権利、波を抱く権利、結婚する権利さえもだ。
俺は、通り過ぎようとする千尋の体を強く掴んで引き止めた。
引き止めた手は震え、力なんてものは一切入ってなく、簡単にすり抜けられるだろう。
「行くな……行かないで……くれ」
掠れた声が虚しく響く。
千尋はため息を吐き出すと、口を開いた。
「波ちゃんを幸せにできるのは、君じゃない。俺だよ」
視界が真っ黒だ。
その言葉を聞いた俺は、その場に膝をついた。
さっき割れた卵の殻が、ジーンズに付着した。
千尋の遠ざかる足音が聞こえる。
だけど、俺にはあいつを止められなかった。
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