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已んだ世界(8)
「ただいま」
自宅に戻った頃には、既に0時を過ぎていた。
いつもなら真っ暗なリビングが今日は灯りを点していた。誰かまだ起きているのか?
そう思いながら、俺はリビングの硝子張りの扉を開いた。
「まだ、起きてたんだ」
俺の低い声に、波は振り返る。
「お帰りなさい、陽介」
パジャマ姿で小走りに近寄ってくる波はなんとも言えないほど可愛い。
「父さんと母さんは?」
「もうとっくに寝ちゃったよ? それより、御飯は?」
俺は制服をソファーへと放り投げる。
「いらね。金田んちで食ってきた。で、なんか俺に用あんの? 待ってたんだろ?」
「あ……うん。なんか放課後のとき陽介、いつもと違ってたから。千尋くんのことも殴って停学になるし……」
「違ったもなにも、あれが俺。セックス中に女を苛めるのが好きなんでね」
口の端を持ち上げて微苦笑する俺に、波は少し戸惑ったようだ。
「で……でもね、ちゃんと考えてよっ。学校とかでエッチなんかしたら……」
「だったら何処でやりゃいいんだよっ? ラブホなんて監視カメラあんだろっ? そっちのがやべぇに決まってんじゃんっ」
「家ですればいいでしょ? もし、学校とかで誰かに見られでもしたら私達……引き離されちゃうんだよ?」
そんな波の瞳に、光る粒。
「どうしちゃったの? 陽介……。ほんと、今日はおかしいよ」
大事にしようって、いつも思うのに、俺は波を泣かせてばかりだ。
ガキなんだと思う。
大人になりきれていない俺は、欲しいものを手に入れられないと駄々をこねて困らせてばかりいる泣きじゃくる子供のようだ。
「俺は……わがままだよ。波を手に入れて、彼氏にむかついて殴って、どうしようもない奴だと自分でも思う。だけど、俺が一番欲しいものは……っ」
瞬間、波の体が俺を包んだ。
俺は目を見開きながら波の温かさを感じた。
次第に冷静さを取り戻した俺は、波に対し呟いた。
「ごめん……」
何に対して謝ったのか分からないくらいだ。
それほどまでに俺は波を何度も傷つけている。
泣き顔しか思い出せない。あんなに、波の笑顔が好きだったはずなのに……。
「陽……介」
くんと、波の甘い香りが鼻腔を擽る。
細い体が折れるほどに抱きしめたくて、波の傍から離れるなんて考えられなくて。
「離れたくねぇよ……」
そう呟いた言葉が、リビングに切なく響いた。
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