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已んだ世界(3)

ようやく朝のラッシュ時の混雑から解放された。安堵の表情の波に対して、俺の表情は相当暗かったようで、「どうしたの?」と、波は小首を傾げながら呟いた。 「いや、別に……」 「波ちゃん、おはよう」 遮られた言葉が浮遊する。 声の主は、波の彼氏の千尋だった。 「千尋くん、おはよう」 戸惑いながら、波は挨拶に応えた。 それ以降、言葉を紡がない波に対し、千尋が口を開く。 「波ちゃん、今日買い物付き合ってほしんだけど、放課後時間ある?」 「あ、ごめん。今日はあたしが夕飯の当番だから……早く帰らなきゃ……」 「そっか。残念だなー」 「うん、ごめんね」 波は俯いたまま、そう言葉にした。 付き合っているのに、どこかよそよそしい態度も気になった。 千尋が遠ざかったのを見計らって、俺は波に尋ねた。 「……別れたの? あいつと……」 俺の質問に目を丸くさせた波だったが、すぐにかぶりを振った。 「別れてないんだ?」 俺とあんなことしてるくせに……と、付け加えたかったが波の表情があまりにも悲しそうだったのでやめておいた。 たしかにセックスで泣かせるのは好きだが、そこまで鬼畜ではない。 「別れてって告げたんだけど、別れてくれなくて……」 「そのまま……放置?」 「うん」 軽く頷いた波に、苛立ちを覚えた。 うじうじしないで、はっきり言えばいいのに。 その優しい性格に、相手はどんどん付け入るんだぞ! ってことを伝えたかったが、俺もその優しさに付け入った一人なので、心の中で思ったまま、口にはしなかった。 「夕飯の当番なんて、ないじゃん。嘘ついてどうすんの? そのまま流されていくだけだぞ?」 軽い忠告はした。 だけども波は、俺の言葉に反応しない。もしかして、まだ千尋のことが好きなのか? とも考えた。 俺とのことは、仕方なく……ということなのか?  色々なことが頭を過ぎる。 むしゃくしゃして、波を置いて早歩きで学校に向かった。 「ちょっと……陽介っ? 歩くの早いよ!」 何も聞こえないフリはお得意だ。波の声が、背後から虚しく響いていた。
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