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見下した月(3)

真っ暗な部屋で蹲る俺の鼓膜に、鍵の差し込む音が聞こえた。 だけど何も動かない俺は、リビングに灯る明かりにすら反応しない。 「ひっ……」と、帰ってきた主は声を上げた。 誰もいないと思ったのだろう。ましてや、電気もつけないで地べたに蹲る俺を泥棒と見間違えたのか? 「おかえり、波」 そう呟くと、波は安堵の表情を浮かべ、買い物袋をフローリングの床へと置いた。 「よ……陽介、帰ってたの? お母さん、何度もあんたに電話かけたけど出なかったって……」 「あぁ、そういやかかってきてたな……」 棒読みで波に返答した。 その答え方がいつもとどこか違うと感じたのか、波は伺いながら尋ねてきた。 「どうしたの? なんだか……陽介の態度、変」 「べつに。いつも通りだよ」 と言いながらも、声のトーンに浮き沈みはない。 「お母さんね、今日、結婚記念日だからって、仕事帰りのお父さんと待ち合わせして晩御飯食べて帰るって。遅くなるから戸締りして先に寝といてって」 「ふーん」 「今日は陽介の大好きなハンバーグ作っちゃう! お姉ちゃんが腕によりをかけて……」 「ああ」 素っ気ない返事の俺に対し、波は気遣いながらゆっくりと口を開く。 「も……もしかして、放課後のアレ……見ちゃった? 陽介、屋上にいたでしょ? 目が合ったように見えたから……」 目を見開いた俺の形相は、どんなものだったのだろうか。 もう一度蒸し返される恐怖。 体の奥底から湧き上がる劣情に、全身の細胞が波を打つかのように震えている。いや、止まらない。 止まる術を知らない。 買い物した食材を冷蔵庫の中へと次々に入れていく波の背後に俺はそっと立った。 足音はしなくて、忍びのように。 俺に気付いた波は、一瞬息を飲んだ。 「何時に帰ってくるって? 親父たち」 唇だけを動かした。その他の筋肉は一切動かしていないと、自分でも分かるほどに。 「しゅ……終電までには帰るんじゃないの? 陽介、そこにいたら邪魔……」 「邪魔? 俺のこと、邪魔なの?」 行く手を阻むように、俺は両腕で波の行動範囲を狭める。 距離は近い。 さっきの屋上よりも、もっと近い。 アイツよりも近づきたい。あの男のものになんて、させるか。 少し屈んで、波の唇に己の唇を重ねた。柔らかな唇が、思考をシャットアウトさせる。 波は逃れようと躍起になるが、そのせいで互いの唇は擦れ、余計に密着していくのが分かる。 波の拳が、噎せ返るほど俺の胸を叩き、ようやく唇は離れた。 「よ……陽介? なんのつもり?」 荒い息を吐き出しながら、波は尋ねる。 「放課後の再現してやったんだよ」 「やっぱり見てたんだ……」 「高校三年にして初めて彼氏ができて、浮かれて放課後の美術室で隠れてキス。なんともまあ、ロマンチックで素敵なシチュエーション」 静かな笑い声が、波の恐怖をさらに駆り立てていく。 「おかしい……よ、陽介。どうした……の?」 震えながらも一つ一つ言葉を紡ぎ出していく波の姿がとても愛おしく感じる俺は、その細い腰に手を添えた。 「真面目な姉貴は、もう経験しちゃったの? いや、まだって言ってたっけ」 「陽介……」 「千尋くんは、真面目な雰囲気だもんなぁ? キスまでってとこか?」 「陽介!」 波の怒りが一瞬にして伝わった。 一度は躊躇したが、ここで止まるわけにはいかないと、波の腕を掴み、二階の部屋へと強引に引っ張りだした。 「痛い! 陽介、離して!」 波の部屋に連れ込むと、俺は波をベッドに押し付けた。 そのまま、片手で波の口を塞ぐ。 震える体に、脅えた目。 今から神をも裏切る行為を行うのだと思うと、さらに興奮が増した。 組み敷く波の体に顔を寄せると、波の体が強ばった。 くぐもった声が聞こえるが、俺はお構いなしに波の白くて綺麗な柔肌に舌を這わせた。 声を発しても止めてはくれない行為に、瞳から溢れるほどの涙が零れていく波の姿に俺は心を躍らせる。 「泣いても止めないよ」 視線が合う。 ほんの少しの躊躇すら見えない俺の瞳を見て、波は愕然とした。 本気だと、分かったのだ。 足をバタつかせても、びくともしない大きな体。 いつの間に、こんなに成長したのだろうか? いつの間に、こんなに男女の差ができてしまったのだろうか? と波は恐ろしさでいっぱいだろう。 可愛い弟に乳房をむしゃぶられ、どう感じている?  塞いでいる俺の掌には波の息が触れた。 「姉貴……感じてるの?」 俺の問いに波はかぶりを振るばかり。 「このベッドで初めてこんなことするのが実の弟だなんて、信じられない?」 言いながら、波の口から手を外した。 「よ……すけ、嫌。やめて……」 脅える波の目は、まるで兎のように真っ赤に染まっていた。 震えて強ばってしまった体は力が 入らないのだろう。 「俺とすんの嫌? 俺が篠原陽介だから? 姉貴と同じ……名字だから? ……同じ血が流れているからかっ?」
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